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妊娠中に心臓血管外科手術が必要とされる状況がときにみられるが,その原因となる病態は大きく2つに分類できる。第1はもともと心疾患,特に先天性心疾患をもっている場合,または心臓手術後の場合。第2は,妊娠中に感染性心内膜炎などに罹患し,疣腫(vegetation)や心不全増悪を認める場合などである。妊娠中は,循環血漿が妊娠前の40~50%増加するため,心拍出量と心拍数の増加をきたす。心拍数は妊娠経過とともに増加し,妊娠32週前後でピークに達し,妊娠前の約20%程度の増加を示す。また1回拍出量は妊娠前期から上昇し,妊娠20~24週でピークとなる。これらの変化に伴って,心拍出量も妊娠20~24週にかけて妊娠前の30~50%まで増加し,その後は一定の値を保つ。一方,妊娠の経過に伴って,大動脈圧および全身血管抵抗は低下する。特に子宮,乳房,腎臓などへの血流が増加するため,拡張期血圧が低下する。先天性心疾患術後患者,特に複雑心奇形術後患者では妊娠後不整脈の増加が数多く報告されている。また妊娠による血液凝固能の亢進や大動脈中膜弾性線維の断裂と大動脈拡張などの報告もある。さらに出産時は,陣痛,出血,出産直後の静脈灌流増加など,交感神経系の刺激や急激な循環動態変化が起こる。先天性心疾患治療,特に最近20~30年の複雑心奇形に対する心臓手術の進歩には目覚ましいものがある。従来助からなかった子供たちの多くが,今では救命されるようになったが,それに伴って,遺残病変や,成長に伴う再手術など,いわゆる成人先天性心疾患患者が増加してきた。心臓手術を受けた子供たち,特にFallot四徴症や肺動脈閉鎖症などの複雑心奇形の手術を受けた子供たちは,肺動脈狭窄や閉鎖不全などを遺残病変としてもちながら成長していることが多い。人工物を用いた修復術を余儀なくされた子供たちは,成長に伴う再手術が必要になることも多い。また無症状の軽度大動脈狭窄や大動脈閉鎖不全を,外来にて経過観察あるいは心不全薬の少量投与でコントロールされている患者も多く存在する。軽度の心不全であれば問題ないであろうが,中等度,重度の心不全を伴っている場合には,妊娠・出産時に心不全の増悪をきたすことが多く,妊娠を希望する場合には,その前に心臓手術を行い,心負荷を軽減することにより妊娠,出産を可能にすることが必要となる。
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