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は じ め に
本邦で開発された関節鏡は1980年代の初頭に肩に応用され,1990年代後半から外傷性肩関節不安定症,すなわち反復性肩関節脱臼(亜脱臼)に積極的に応用されるようになった.2000年にBurkhartらは関節鏡視下安定化手術(鏡視下Bankart法)の成績を報告した1).それによると,鏡視下Bankart法を行った194肩の術後再発率は10.9%であったが,術前骨欠損が少ない173肩の再発率は4%ときわめて良好であったのに対し,術前の関節窩骨欠損が大きかった21肩の再発率は67%ときわめて不良であった.このため,術前の関節窩骨欠損が大きい症例には鏡視下Bankart法では不十分で,烏口突起を横おきで移植する直視下Latarjet法が推奨されると報告した1).それ以来,骨欠損の大きな症例やhigh demandアスリートに対しては,共同筋腱の動的安定化作用も期待できるLatarjet法やBristow法などの烏口突起移植術や,自家腸骨や脛骨のアログラフトなどの骨移植術が直視下もしくは鏡視下で盛んに行われるようになった2~8).
一方,2003年に筆者らは,反復性肩関節脱臼(亜脱臼)の関節窩骨形態に注目し,上腕骨頭をはずして100例の本症に対して3D-CT評価を行ったところ,健側と比して正常形態は10%であったのに対し,関節窩前下方に骨片の存在する骨性Bankart症例が50%,ほかの40%は骨片の存在しない摩耗型であることを報告した9).また,これら骨性Bankart症例を関節鏡視下に修復する方法を報告し10),併せて術後2年の短期成績と術後5~8年の中長期成績を報告し11,12),術後再発がきわめて少なく良好な臨床成績であるだけでなく,関節窩のリモデリングにより長期的には関節窩骨形態が正常化することを報告した12).本報告により,関節窩骨欠損が大きくても一定サイズ以上の関節窩骨片が存在すれば,烏口突起移植などの骨移植は必要なく,関節鏡視下骨性Bankart法で十分対応できることが示された.しかしながら,2024年の現在,世界を俯瞰すると,本症に対する骨移植術の適応に関しては治療者の得手不得手や純粋な好みにより,骨性Bankart病変の有無に関係なく積極的に骨移植を行う者と,低侵襲な鏡視下骨性Bankart法を好む者の両者が存在するが,どちらかといえば前者がいまだ主流であると考えられる.本稿では,最近の筆者らの新知見ともいえる3D-CTを用いた,鏡視下骨性Bankart法手術後の関節窩骨形態変化について報告する.
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