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は じ め に
変形性肘関節症は比較的まれな疾患で,外来で出会うことは少ない.さらに,たまたまX線像でそれをみたとしても,変形性肘関節症自体の症状はないか,手術を含む侵襲的な治療は不要である,あるいは希望されない程度であることがほとんどである.そのような理由で,実際の罹患率についてはこれまであまりわかっていなかった.しかし,近年大規模な住民コホート研究が盛んに行われるようになったため,その頻度も徐々に明らかになりつつある.古くはDebonoらが,中世から前近代期の骨を調査し,その罹患率を27%と報告している1).一方,Stanleyは,外傷クリニックを受診した患者のX線像から,有症状の変形性肘関節症の罹患率を2%と報告している2).最近わが国から,住民コホートを用いた調査結果が報告された.Oyaらは単一の住居地区に住む40歳以上の354名の肘関節X線像を調査し,X線学的な変形性肘関節症の罹患率を55%,有症状の罹患率を22.6%と報告している3).臨床現場の印象と比較してかなり多い.一方,Nakayamaらは,単一の地区に住む318名の肘関節X線像を調査し,X線学的な変形性肘関節症の罹患率を25.2%,有症状の罹患率を0.9%と報告している4).こちらのほうが実際の臨床現場の印象に近い.これは肘の痛みがさまざまな原因のものを含みうるため,どのくらい厳密に判断するかといった判断,ないしは診断基準の差によると考えられる.Oyaらと同じグループから報告されたX線学的変形性肩関節症の罹患率が17.4%であることと考え合わせると5),X線学的な変形性肘関節症はまれではないが,治療を要するほどの症状はほとんどないといってよいであろう.
一方,少ないといっても確かに有症状の患者は存在する.その危険因子としてこれまで,年齢に加えて肥満,激しい肉体労働や外傷があげられてきた1~4).特に外傷は大きな危険因子で,人工肘関節全置換術(total elbow arthroplasty:TEA)を必要とする患者において,一定の割合で外傷後変形性関節症がみられる.Mackenらの報告によると,TEA施行例のうち,一次性変形性肘関節症の割合は17%で,外傷後変形性関節症の割合が9%であった.股関節や膝関節と比較すると多い.このうち外傷後変形性関節症の割合に経時的な変化はないが,一次性変形性関節症の割合は増加傾向であった6).多くのレジストリや保険データベースのTEAの適応疾患の調査結果をみても,関節リウマチに対する適応が減少する一方で,急性外傷に対する適応症例が増加しており,一次性変形性関節症例は増加傾向,外傷後変形性関節症例は変化なしとされる(図1)7~10).変形性肘関節症に対するTEAの施行率は人口10万人あたり0.2人とされ,膝や股関節の200人,肩関節の20人,足関節の2%と比較してもかなり少ないといえるが11),鏡視下手術や関節形成術などで対応が困難な症例に出会うことはまれとはいえない.そのような場合にどのように治療すべきか,本稿で考えてみたい.
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