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は じ め に
「この新しい手術方法は効果があるのか?」といった臨床における疑問は,治療方法とその効果の間の因果関係を解明することを要求している.しかし,この因果関係は実際に観察することはできない.因果関係の観察を可能にするのは,2020年5月に現在の手術方法を患者に適用し術後2年の生活の質(QOL)を評価した後,同じ患者をタイムマシンに乗せて2020年5月に戻り,新しい手術方法を適用し,手術方法以外のありとあらゆる要素はまったく同じにし,術後2年のQOLを同じように評価し比較できる場合のみである.そのため,臨床研究のプロセスは,実際に研究によって観察することができる相関関係(association)から,観察することのできない因果関係(causation)を推論(因果推論:causal inference)するプロセスである.では,どのように因果推論を行うのであろうか.
観察することができる相関関係には,因果関係以外にも相関関係をつくりうる「ほかの事象」がある.「ほかの事象」とは,選択バイアス(selection bias),情報バイアス(information bias),交絡因子(confounder),偶然(chance),逆因果関係(reverse causation)であり,相関関係はこれらの事象によってもつくられる場合がある1~3).これらの「ほかの事象」が相関関係を生み出す可能性を否定し,因果推論を相関関係が観察される唯一の理由とすることにより,臨床の疑問の答えを導き出そうとする試みが臨床研究の目的である1~3).「ほかの事象」を取り除くプロセスは,アウトカムは治療によるものではなく,ほかの原因によるものではなかったのか,という疑問の要因を取り除くということであり,比較された患者の間で,二つの手術方法以外の要素に違いはなかったと証明することである.上記のタイムマシンを使用した状態に近づけることが臨床研究には必要となる.この目的の達成のためにまずはじめに行うことは,臨床における疑問を研究可能な設問にPICOTを使って整理し直し,研究可能な仮説を作り出すことである(「Ⅱ-1.クリニカルクエスチョンからリサーチクエスチョンへ」参照).「この新しい手術方法は効果があるのか?」という臨床における疑問はPICOTを使って整理し直すと,たとえば「8~11歳の側弯症患者のなかで(population/patient:研究対象者),新しい延長術(介入群/曝露群:intervention/exposed)は,現在行われている固定術(対照群/非曝露群:comparison/unexposed)に比べて,成人したときの(アウトカム計測までの時間:time)呼吸機能がよい人が多い(アウトカム:outcome)」という研究可能な仮説を立てるとよい.その後,研究のデザインを選ぶ段階に入る.そこでも,因果関係のほかに相関関係をつくりうる「ほかの事象」を,より多くより確実に消去することを第一に検討する必要がある1~3).そこで,以下に相関関係をつくりうる「ほかの事象」を示した.
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