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は じ め に
仙腸関節は仙骨と腸骨の関節面で構成される滑膜関節であるが,周囲は強固な靱帯で覆われ,関節運動はわずかである.動きが少ないのは関節として一見不利に思われるが,仙腸関節はこのわずかな動きで飛行機や自動車,免震構造物に多く使用されているダンパーのごとく,脊柱の根元で衝撃緩和装置として機能し1),人体が直立二足歩行を行うのにきわめて重要な役割を果たしていると考えられている2,3).
頭側から人体構造を観察すると,脊柱の基部に仙骨があり,仙腸関節を介して左右の腸骨に分かれる.下肢と体幹は分離した動きをするが,そのつなぎ目である仙腸関節には大きな剪断力が働いている.歩行中は必ず一下肢で全体重を支える時期がある.したがって,体幹と下肢の接合面である立脚側の仙腸関節は,上半身と遊脚肢の負荷と地面からの衝撃に曝され,それに耐える安定性が求められる.
これまで,仙腸関節の微小な動きを同定する手法は確立していない.報告されてきた関節の動きは,平行移動0.7~3.0mm,回旋1°~12°と,かなりの幅がある4,5).Hammerらはカダバーでの仙腸関節の動きを新たな手法で計測し,平行移動0.32mm,回旋0.16°と報告した6).CTを用いた三次元での計測1,7)で,生体内においても仙腸関節に動きがあることは確認されている.現時点では歩行中の仙腸関節の微小な動きをとらえる手法はなく,仙腸関節の微小な動きが直立二足歩行においてどのような機能を担っているのか明らかではない.
われわれはこれまで,仙腸関節障害重症例に対して仙腸関節固定術を行ってきた.その結果,固定側の股関節可動域(ROM)が減少し,歩幅が減少することがわかった8).仙腸関節固定による機能損失を見積もったうえで手術を検討することが重要である.直立二足歩行における仙腸関節の微小な動きの役割を明らかにし,固定術後にどのような機能損失が生じるか推察するため,仙腸関節構造を有し直立二足歩行が可能であるアンドロイドモデルを用いて,仙腸関節固定前後での歩容変化を検討した.
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