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は じ め に
仙腸関節は脊柱の根元でわずかな動きを有することで,衝撃吸収装置として機能していると考えられる1,2).われわれは先行研究3)において,仙腸関節構造と周囲靱帯構造を再現した骨盤の有限要素モデルに実際の3次元歩行データを入力して仙腸関節の役割を検討した.骨盤構造において仙腸関節部は特に応力が集中する部位で,ここにわずかな動きがある関節構造を有すことで応力が分散される.その負荷は周囲靱帯が受け止めており,仙腸関節が衝撃吸収装置としての機能を有していることがわかった.しかし,仙腸関節に関するバイオメカニクスの知見は限られており,衝撃吸収以外の機能は明らかではない.
われわれは,仙腸関節構造を有す直立二足歩行アンドロイドモデル(全身型)を用いて,片側仙腸関節固定術の歩行への影響を検討した4).仙腸関節が固定されると体幹の慣性力を生かした効率のよい二足歩行が阻害され,固定側の下肢の振り出しが減少し,固定側への体幹の側屈が増強した.これは実際の仙腸関節固定術後の症例の歩容と同様の変化であった.アンドロイドモデルでの歩行観察から,ヒトの直立二足歩行は大腰筋を主たる動筋として,腰椎前弯構造により屈伸,側屈,回旋の3方向の運動がつくられ,腰椎部の上方の胸郭および頭部を錘として歩行のための慣性力を生み出していることが示唆された.体幹でつくられた慣性力が仙腸関節や下肢を介して床まで伝達し,床反力と呼応することで効率のよい二足歩行を実現していると考えられる.アンドロイドモデルでは,立脚期において腰椎の屈伸は移動方向への原動力,回旋は対側下肢(遊脚側)の振り出し,側屈は対側下肢の持ち上げに使用されることが観察され,ヒトも同様のメカニズムで歩行の力源を得ている可能性がある.
アンドロイドモデルを用いたこれまでの知見より,仙腸関節は衝撃吸収装置としての機能に加え,歩行周期に応じて必要な慣性力を振り分けて下肢に伝達している機能があると考えた.本仮説を検証するため,以下の実験を行った.
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