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はじめに――骨系統疾患を治療する時代
骨系統疾患の原因遺伝子の発見の必要性が増している.これまで,ほとんど手のつけようのなかった難病(の集合)である骨系統疾患が,治療できる疾患にかわろうとしているからである.疾患の原因を同定し,それを出発点に,論理的・戦略的に治療へと向かう―近代西洋医学の原則が,骨系統疾患にも適用可能となった.生物学,化学,薬学の新技術のサポートにより,原因遺伝子の同定から病態の解明,治療法の開発への道が,明確な,実現可能なものになろうとしている(図1).原因遺伝子を発見すれば,そのハイウェイに乗ることができる.治療・治癒への出発点である原因遺伝子の同定を,早く,正確に,確実に行う必要性がある.
すでに多くの骨系統疾患が,その治療への道へすすんでいる.低ホスファターゼ症(hypophosphatasia)における酵素補充療法の効果には目を見張らせるものがあり1),疾患の分類名から,“perinatal lethal” という亜分類が消去されようとしている.さまざまな骨系統疾患で新薬の開発が行われており,いくつかの成功例が出はじめている.軟骨無形成症(achondroplasia)では,京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の妻木グループがその先鞭をつけた2).目下,軟骨無形成症やその関連疾患における線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)シグナルのin vitro,in vivoでの機能解析の結果を基盤として,長寿命のC-natriuretic peptide(CNP)アナログによるグアニル酸シクラーゼ活性化3),可溶性「デコイ」FGFR3受容体によるFGFシグナル伝達の調節4),FGFR3のチロシンキナーゼ活性を阻害する特異的阻害薬5)など,軟骨無形成症関連疾患の病因であるFGFR3シグナルの亢進に対抗するためのさまざまなアプローチが研究されている.これまで脚延長や成長ホルモンで姑息的に治療され,「治る」ことのなかった軟骨無形成症が治癒する時代がくるのも,そう遠いことではないであろう.
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