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は じ め に
複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)は,外傷や手術などに引き続いて発症する痛みを伴う多彩な症状を特徴とする症候群であるが,きわめて難治性である.治療法としては,交代浴,非ステロイド性抗炎症薬,ステロイド,ビスホスホネート製剤,抗うつ薬,抗不安薬,抗けいれん薬,抗不整脈薬,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,カルシトニン,エルシトニン1)などが報告されているが,いまだ十分な有効性は得られておらず,Forouzanfarら2)は「CRPSに対する治療法の効果については限定されたエビデンスしかない」と報告している.その理由としては,いまだにCRPSの原因が解明されておらず,また,単一の原因ではなく複数の要素が関与していることが想定されている.
認知行動療法は,1960年代にBeckが提唱した治療法で,認知療法と行動療法を合わせた治療体系3)である.医師あるいは医療従事者が患者と対話することにより,患者の「考え方(自動思考)」をかえ,それにより「感情」をかえ,結果として「行動」をかえることができるようにするというものである.
認知行動療法は,うつ病に対して抗うつ薬よりも有意に効果的であることが報告4)されており,現在は,不安障害,心的外傷後ストレス障害,睡眠障害,慢性疼痛5),糖尿病などに対する有用性が報告されている.さらに慢性疼痛に対しては,認知行動療法はほかの精神療法より有効である6)こと,6ヵ月以上も効果が持続する7)ことが報告されている.
このように,認知行動療法は慢性疼痛に対する有効な治療法の一つであるが,整形外科医が認知行動療法を用いた治療をする際には,いくつかの重大な障壁が存在する.もっとも大きい一つ目の障壁は,認知行動療法は「精神」を対象とするため,これまで「精神」を治療対象としてこなかった整形外科医には理解・習得がきわめてむずかしいこと,二つ目の障壁は,認知行動療法の現行での保険適用病名は「入院中の患者以外のうつ病等の気分障害,強迫性障害,社交不安障害,パニック障害,心的外傷後ストレス障害又は神経性過食症」であり,慢性疼痛自体には保険適用はないことであるが,これについては,本報告でも示されているように,慢性疼痛にはうつなどの気分障害を伴うことが多いため,うつ病を副病名とすることで保険適用となると考えられる.三つ目の障壁は,認知行動療法で保険算定をする場合には,医師が長時間の診察を行わなければならないことである.具体的には,初回は医師による30分以上の時間をかけての面接が必要であり,初回以後も,看護師による面接(患者の同意が必要であり,さらに面接内容を録音する必要がある)が30分以上と医師による5分以上の面接も必要とされる.四つ目の障壁は,認知行動療法で保険算定をする場合には,「うつ病等の気分障害,強迫性障害,社交不安障害,パニック障害,心的外傷後ストレス障害又は神経性過食症」などのおのおのの治療マニュアルに従って治療を行わなければならない8)ことである.
慢性疼痛患者にとって認知行動療法が有益であることはすでに報告4~7)されており,CRPSに対しても28例の小児に対する有効性9)などが示されている状況を鑑み,前述の問題を解決し,一般の整形外科医が認知行動療法を慢性疼痛やCRPSに施行できるようにするため,筆者は「自主的認知行動療法」を考案した.
「自主的認知行動療法」の大きな特徴は,ワークブック形式となっているため,患者が自宅などの病院外で独習することを可能とした点である.認知行動療法の解説とワークが一つの章となっているため,患者は認知行動療法の内容を理解し,すぐに行動することで痛みによって障害されている日常生活の活動性を改善しやすくなるように細心した.
本報告の目的は,整形外科および麻酔科などで各種治療を施行後にも痛みが残存した難治性CRPS例に対する「自主的認知行動療法」の有用性を評価することである.
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