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どんな薬?
トラスツズマブ デルクステカンは,抗体薬の一種で2020年に発売になった薬です.がん薬物療法の領域で抗体薬が使用され始めたのは1990年代で,がん細胞の増殖にかかわるタンパク質やがん細胞の表面にあるタンパク質を標的として創薬されました.しかし,抗体薬のみでの完治はむずかしく,再発あるいは治療耐性をもつがんに対して,さらなる治療薬の開発が望まれていました.そこで,抗体に抗がん作用のある低分子化合物を結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)が開発されました.ADCは,抗体が特定の分子をもつがん細胞に結合する性質を利用して,薬を直接がん細胞まで運び,そこで薬を放出することで薬物の全身曝露を抑えつつ,効果的に抗腫瘍効果を発揮する薬です.2024年現在,7種類のADCが発売されており,トラスツズマブ デルクステカンもその中に含まれます.
トラスツズマブ デルクステカンは,ヒト上皮成長因子受容体2型(human epidermal growth factor receptor type 2:HER2)に対するヒト化モノクローナル抗体のトラスツズマブとトポイソメラーゼI阻害作用を有するカンプトテシン誘導体のデルクステカンをリンカー(架橋剤)で結合させたADCです.HER2は乳がん患者の約20%に過剰発現しており,胃がん患者では約10~16%に過剰発現や遺伝子増幅していることが報告されています.さらに非小細胞肺がん患者の約3%にHER2 (ERBB2)遺伝子変異陽性があることがわかっており,HER2は腫瘍増殖に影響する分子として重要な標的となっています.
2001年に承認された抗HER2抗体のトラスツズマブは,高い治療効果を示す一方で再発した場合には薬剤に対して抵抗性や耐性を獲得していることも多く,新たな治療法が求められていました.そんな中,トラスツズマブ デルクステカンはトラスツズマブ耐性獲得あるいは薬剤抵抗性,HER2低発現に対しても効果があることが証明され,日本では2020年に乳がんと胃がん,2023年に非小細胞肺がんで承認されました.さらに,米国食品医薬品局では2024年1月に,前治療歴があり代替の治療手段のない切除不能または転移性のHER2陽性固形がん(胆道がん,膀胱がん,子宮頸がん,子宮内膜がん,卵巣がん,膵臓がんおよび希少がん)に対してより早く新薬を届けるための制度(優先審査)が活用され,承認されました.ただし,検証的試験で臨床的有用性を検証することが条件となっています.この結果によっては,今後日本での承認拡大も期待できるのではないかと思います.
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