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どんな薬?
筆者が,がん化学療法看護認定看護師を目指して学習をしていた2000年に,講義にきてくれる医師がみんな口を揃えて「がん化学療法のパラダイムシフトが起こる」と話し,何がそんなに変わるのだろうと思っていました.その一つが分子標的治療薬の誕生でした.殺細胞性抗がん薬とはまったく異なる機序でがん細胞を攻撃する薬であると説明され,初めて耳にする「モノクローナル抗体…,HER2…,ハイブリドーマ…,mab…」などの言葉がイメージできず,とても混乱したのを覚えています.当時は,がん細胞に特異的に出現しているタンパク質を標的にしているので,抗腫瘍効果が高いうえに,今までのような副作用はないということでしたが,実際には標的分子はがん細胞だけでなく正常細胞の一部にも出現しているので,残念ながら副作用はありました.
日本で最初に承認・発売された抗体薬はトラスツズマブでした.乳がん患者が適応で,海外での成績は今までにないほどの高成績でしたが,殺細胞性抗がん薬では経験のない副作用としてインフュージョンリアクションがありました.「いわゆる過敏症とは違う」といわれ,発生機序や対処方法について必死に学習したのを思い出します.また,トラスツズマブを使用した患者に心機能障害が出現するということもわかりました.その原因として標的であるHER2受容体が心筋細胞にも存在していたためでした.抗がん薬による心機能障害はアントラサイクリン系抗がん薬による心筋症(タイプ1)が知られていましたが,トラスツズマブによる心機能障害(タイプ2)はそれとは違うということもわかってきました(表1).承認から20年以上が経過し,副作用症状への対策も整い,トラスツズマブは乳がんだけでなく,胃がんや唾液腺がんなどにも適応が広がり,今もkey drugとして活躍しています.
▼表1 タイプ別心毒性の特徴 タイプ1(心筋障害) アントラサイクリン系抗がん薬で起こる.心筋障害は持続的で不可逆的である.用量に相関性がある.フリーラジカル生成,酸化ストレスによる細胞質障害. タイプ2(心機能障害) トラスツズマブで起こる.心筋障害は一般的に可逆的である.2~4ヵ月で回復することが多い.用量には依存しない.HER2受容体を介する保護作用の阻害.
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