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“がんロコモ”を知っていますか?
“ロコモティブシンドローム”とは何かご存じだろうか? “ロコモ”とは,運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態である.ロコモの原因となる代表的な疾患は,骨粗
さて,がん患者は一般的には高齢者が多いので,いわゆる前述の“ロコモ”になりやすい.がんの治療中に,もともとあったロコモが悪化し,痛みの原因になることがある.さらにがん患者では,①がんそのものによる障害,②がん治療に伴う障害など,さまざまな運動器の問題を生じやすい1).がんそのものによる運動器の障害として代表的な病態は,骨転移による痛み,骨折,麻痺である.がん治療に伴う障害としては,化学療法や放射線治療による廃用,筋力低下,骨粗鬆症,末梢神経障害などが挙げられる.ベッド上に1週間寝ているだけで,10~15%筋力が低下するといわれている.さらに,がんに対する手術によってもさまざまな障害を生じるが,これらを放置すると,「立つ」「歩く」といった基本的な運動機能が低下する.このようにがん患者ではさまざまな理由により,移動機能が低下し,“がんロコモ”になる.
これまでがんになると,がんの主治医,整形外科医,がん治療にかかわる医療関係者,患者やその家族は,がん治療を最優先にすべきと考えがちであった.しかし,治療の進歩とともに生存率が改善し,根治できなくても長期生存できる患者が増え,最期まで運動機能を維持することがますます重要になっている.『骨転移診療ガイドライン 第2版』でも,「CQ16:骨転移患者の歩行能力維持のための介入は有用か?」に対して,“歩行機能やPS(performance status)維持は,患者の生活の質(quality of life:QOL)維持に重要であるだけでなく,生命予後を改善する可能性もあるため,歩行能力を維持するための介入を行うことを提案する”,と記載されている2).移動機能が維持されれば,仕事や趣味,自宅退院,自立した生活を続けることが可能となり,QOLが維持される.さらに,PSが保たれていることが,全身治療継続の条件となることが多く(図1),外来通院ができる患者では,分子標的治療薬やホルモン治療など,全身治療の選択肢が飛躍的に広がる.全身治療を継続できることは,生命予後改善にもつながる可能性がある.
これまで整形外科医ががん診療にかかわる機会は少なかったが,この状況を打破し整形外科医が積極的にがん患者にかかわっていくために,日本整形外科学会は,2018年に“がんロコモ”という概念を立ち上げた.がん患者の移動機能が低下していたら,ぜひ,整形外科医に相談してほしい.
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