- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
事例1:オピオイド誘発性便秘の患者に対しセルフケア能力に合わせてエコーを用いた事例
患者プロフィール
A氏,70代,男性.寡黙な人.肺がん,予後3ヵ月.妻と2人暮らし.
患者の状況(経過)
A氏は侵襲的治療を希望せず,喫煙を楽しむため自宅療養を選択した.左胸部痛に対してオキシコドン1日40 mgとオキシコドン2.5 mgの頓服1日3~4包を服用していた.下剤はナルデメジン0.2 mg 1錠と酸化マグネシウム330 mg 3錠の処方であった.外来で高カルシウム血症の点滴治療後に下痢となったA氏は,ナルデメジンのみを服用していた.訪問看護は主に症状緩和と妻の不安へのケアのために,週1回の訪問頻度となった.
訪問看護2週目,A氏から「便が出そうで出ない」と訴えがあったため,看護師は浣腸を提案した.A氏は「浣腸は自分でする」と話し,看護師による浣腸を希望しなかった.
訪問看護3週目,A氏が通院困難となったため,訪問診療が導入された.A氏が便秘に対して自身の便の状態を観察し,適時浣腸を行い,酸化マグネシウムの内服を再開したことで,定期的な排便が認められるようになった.妻は「以前,病院で看護師から浣腸が必要と説明を受けたが,夫が納得していない状態で浣腸が実施された.夫の気持ちを尊重されずにケアされたことは,夫にとってつらい経験になっている」と話した.看護師は,A氏の排便のセルフケアを自立と評価し,支持した.一方で,今後,A氏の排便状況や自覚症状の変化時,エコーを用いた便秘予防の支援が必要になると考え,携帯型エコーを常に準備していた.
訪問看護4~5週目,看護師からA氏に何か気になることはないかと声をかけた.A氏は「気になることはない.軟らかい便が毎日出ている」と質問への返答のみ行い,たばこを吸い始めた.看護師は治療日誌から排便状況を確認し,また腹部観察などから問題ないと判断し,見守った.
訪問看護6週目,A氏から「排便は毎日あるが,おなかが張る」と訴えがあった.便性はブリストル便形状スケールタイプ4~5(普通便~やや軟らかい便)であった.腹部観察から異常所見はなかった.看護師は,治療日誌からオキシコドンの飲み忘れや入浴ができていないことを確認し,病状が進行していると判断した.A氏に携帯型エコーを用いた腹部観察を提案し,了承を得た.エコー画像では,直腸に便はなく,下行結腸に便を認めたが,毎日排便を認めたことから,薬剤は現状でよいと伝えた.「おなかは張っているけど,便秘ではないのですね」と安心した様子がみられた.
訪問看護7週目,A氏は入眠していた.妻は「夫自ら便が硬くなっていると医師へ相談し,酸化マグネシウムが4錠に増えた」と話した.看護師は,下剤の増量直後ということもあり,便性や排便回数の評価は翌週に行うことにした.
翌週の訪問看護8週目,排便間隔は2~3日に1回であった.便性は,硬便から普通便に改善していた.A氏は「普通便だけど,おなかが張っている」と話した.殿部の発赤などを認め,ベッド上臥床時間が延長していると考えられた.
© Nankodo Co., Ltd., 2024