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どんな薬?
ベンダムスチンは,1960年代に旧東ドイツのイエナファルマ社が合成した抗がん薬で,非ホジキンリンパ腫や多発性骨髄腫,慢性リンパ性白血病,乳がんの治療薬として長く使用されていました.ベンダムスチンの開発当時,旧東ドイツではシクロホスファミドが高価で輸入がむずかしかったために,その代替薬としてベンダムスチンを合成したといわれています.第二次世界大戦後の当時,東西ドイツは分断されていたため,旧東ドイツ以外の国でベンダムスチンを使用することはありませんでした.1989年にベルリンの壁が崩壊したあと,1990年に東西ドイツが再統一されて,ドイツ連邦共和国となりました.その後しばらくして,旧東ドイツで開発された薬について再評価され,非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病,多発性骨髄腫での適応が再承認されました.このことをきっかけに,欧州諸国,米国などで順次承認され,日本では2010年に「再発又は難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫」を適応症として承認されました.その後,慢性リンパ性白血病への承認が追加され,現在では非ホジキンリンパ腫に対してリツキシマブやオビヌツズマブ,ポラツズマブ ベドチンなどの抗体薬と併用することで,高い奏効率や無増悪生存期間の延長などの効果が得られています.また,再発または難治性の非ホジキンリンパ腫に対しては単剤投与が承認されています.さらに,2019年には腫瘍特異的T細胞輸注療法(CAR-T療法)の前処置として適応承認されました.CAR-T療法は,患者のT細胞を取り出してがん細胞を攻撃できるT細胞に改変したのちに患者の血液に戻す治療法です.身体に戻した腫瘍特異的T細胞が十分に働くように,注入前に体内のリンパ球を減らす目的でベンダムスチンを投与します.
ベンダムスチンは,ナイトロジェンマスタード基(アルキル基),プリン誘導体様骨格(ベンゾイミダゾール環),カルボン酸基から構成されています.ナイトロジェンマスタード基はアルキル化作用,ベンゾイミダゾール環はプリン代謝拮抗作用,カルボン酸基は水溶性の向上作用をもっています.そのため,高度の汎血球減少やリンパ球減少などの副作用が出現する可能性が高いです.とくに,骨髄抑制がある患者や感染症の合併,肝炎ウイルスの感染または既往がある,肝機能障害,腎機能障害のある患者では副作用が強く現れる可能性が高いため,治療前に血液検査などで確認しておく必要があります.とくに,重症感染症の予防などが重要です.
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