特集 がん医療における「家族ケアの課題」 ~困難事例への解決アプローチ~
実践! がんとACP(意思決定支援)
がん臨床の倫理的問題とACP
澤田 紀子
1
,
松本 修一
2
Noriko SAWADA
1
,
Nobukazu MATSUMOTO
2
1東京医科大学病院集中治療部/家族支援専門看護師
2洛和会音羽病院看護部,長野県看護大学大学院/家族支援専門看護師
pp.161-165
発行日 2024年3月1日
Published Date 2024/3/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_kango29_161
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はじめに
現在,日本人にとってがんは身近な病気となっており,その病気の経過は,終末期の軌跡モデル(イルネス・トラジェクトリー)では,比較的長い期間身体機能が保たれ,最期の2~3ヵ月で急激に身体機能が低下することが多いとされている1).つまり,終末期の病状変化が急激である可能性や,治療に伴う重篤な合併症や副作用で思い描いたような最期を送ることができないケースがある.このような状況において,医療の場では,家族に代理意思決定を求めることが多々みられる.一方で,代理意思決定を担った家族の80%以上は心的外傷後ストレス障害に苦しんでいるという報告2)や,家族が患者の思いを推察するむずかしさ,患者の意向よりも家族の希望を優先する決断を行うなど3)の問題点が指摘されている.将来の医療ケアを話し合うプロセスである人生会議(advance care planning:ACP)は,これらの問題を解決し,患者の意思を尊重した医療を提供するために有用とされているが,開始するタイミングのむずかしさや,患者と医療従事者の信頼関係が不可欠であること,時間と手間を要するなどのむずかしさが指摘されている.
本稿では,がんに罹患した患者とその家族の最期の時間を支えるために,患者自身の意思決定や家族・医療者と合意形成,つまりACPに関して,その周辺の概念も含めて解説し,事例を使って支援のポイントを考えていく.
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