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がん悪液質について,「ターミナル期のがん患者の症状」「回復が期待できないるい痩,低栄養状態」というイメージをいまだ多くの看護師がもっていることが推測されます.実際,『看護学事典』(第2版,2011年)においても,悪液質の原因疾患を悪性腫瘍,バセドウ病,下垂体機能低下症としたうえで,「全身状態が著しく衰弱した病的状態」とし,「患者の苦痛を取り除くことを優先したターミナルケアが重要である」と記されています.看護基礎教育課程でがん悪液質の何たるかを学ぶことはほとんどなく,卒後教育においても,がん疼痛,悪心・嘔吐,呼吸困難,倦怠感などの症状コントロールの学習機会はあっても,がん悪液質について学ぶ機会はこれまでほとんどありませんでした.ところが,2011年にEPCRC (European Palliative Care Research Collaborative)コンセンサスによる定義が示されたことで,これまでのがん悪液質に対するパラダイムが大きく変化しました.すなわち,がん悪液質は前悪液質(Pre-cachexia)から可逆的段階である悪液質(cachexia),さらに不可逆的段階となる不応性悪液質(Refractory cachexia)へと変化する連続性のある病態であり,進行性の機能障害にいたる多因子性の症候群であることが示されました.また可逆的段階の悪液質患者に対し,多職種による集学的治療を行うことで悪液質改善への可能性が期待されることも徐々に明らかになっており,そのためにも看護師が悪液質の病態と介入方法を知り,適切にアセスメントすることで介入の機会を逃さないことが重要になってきました.近年,わが国の看護領域でもこのことが認識されつつあり,2022年2月の日本がん看護学会においても,がん悪液質関連のセミナーが開催されるなど,関心が高まっています.
そこで今回,がん悪液質についてさまざまな角度から学び,日常のケアに活かせるよう,‘がん悪液質を知る’特集を企画しました.はじめにがん悪液質の定義と病態について,治療期と終末期の悪液質の病態の違いも含め解説しています.次にがん悪液質に対する治療的介入として,薬物療法,栄養療法,運動療法とリハビリテーションについて,その作用機序と具体的内容を臨床的見地から詳説しました.続いてがん悪液質に対する看護の現状と,アセスメントの枠組み,ケアにつながる心理社会的介入について,エビデンスをもとに解説しています.最後に,がん治療期と終末期それぞれの事例をもとに,ケアの実際を具体的に紹介しました.
本特集を通じて,悪液質を呈するがん患者のケアのtipsをつかんでいただけたら幸いです.
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