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どんな薬?
ボルテゾミブは,日本で2006年に承認された第一世代のプロテアソーム阻害薬です.長い間,多発性骨髄腫の標準的治療はMP療法(メルファラン,プレドニゾロン)で,多くの患者がその恩恵を受けてきました.しかし,二次治療として,効果的な治療法がない中で,ボルテゾミブの登場は次の治療選択ができると喜ぶ一方で,プロテアソームを阻害する薬と聞いて,まったく理解できず頭の痛い時間を過ごしたことを覚えています.当時,細胞や細胞増殖にかかわるタンパクが,どのようにはたらき,代謝されていくのかが理解できていなかったため,プロテアソームやユビキチン化,NF-κB,IκBといった言葉が暗号のように感じ,これで本当に安全に投与管理ができるのか,患者さんへ説明ができるのかと不安でしかたありませんでした.
ボルテゾミブは当初,再発または難治性の多発性骨髄腫に対してのみの承認でしたが,現在では未治療の多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫に適応拡大されています.2016年以降には,第二世代のプロテアソーム阻害薬として静脈内注射薬のカルフィルゾミブ(カイプロリス®),経口薬のイキサゾミブ(ニンラーロ®)が登場し,治療選択の幅が広がってきています.
ボルテゾミブは,多発性骨髄腫患者の生存期間が延長されるなどのベネフィットをもたらす一方で,末梢神経障害の出現頻度が高いということが注目されていました.そこで,投与経路による作用・副作用の違いが注目され,静脈内投与と皮下投与の比較第Ⅲ相試験(非劣性試験)が実施されました.その結果,皮下投与は静脈内投与に効果は劣らず,末梢神経障害の出現や程度が低いということがわかり,2012年に皮下投与が追加承認されました.皮下投与は治療時間,治療費,末梢神経障害の出現頻度などの面で利点が大きいですが,同一部位に繰り返し注射すると皮膚の炎症や,皮下脂肪組織の萎縮,皮膚の硬結が起こり,吸収が低下するなどの問題もあるので,注射部位やモニタリング内容などをよく知って,治療に携わることが大切です(図1, 2).
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