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病態 ~なにが起こっているのか~
がんが進行するにつれてがん悪液質は強まりがん治療の継続と効果,予後,パフォーマンスステータス,quality of life (QOL)に影響を及ぼす1-5).がん悪液質は栄養摂取障害とタンパク質,脂質,糖質の代謝障害により複合的に引き起こされる骨格筋減少を主とした体重減少を特徴とする1).この体重減少において栄養摂取障害は大きな要因であり,がん悪液質により活性化された炎症性サイトカインが摂食中枢である視床下部に影響し食欲不振を引き起こすだけでなくさまざまな身体的・精神的症状も栄養摂取障害の誘因となり,これらの症状はnutrition impact symptom (NIS)といわれる(表1A)6).がん悪液質は心理社会的にも患者と家族を苦しめる.先行研究によると食に関する苦悩は重大で,患者と家族のがん悪液質への抵抗,栄養摂取障害,家族関係の悪化,家族の役割の変化など多様な要因がある(表1A)6).近年のがん悪液質の治療の主軸は症状緩和と栄養サポート,エクササイズであり,さらに食欲の増進,骨格筋の増加・増強などの作用を有する新薬の開発にも力が注がれている5).しかし,緩和ケアでは患者と家族の食に関する苦悩の緩和を含めたホリスティックでマルチモーダルなケア*が必要である(表1B,図1)6).
多くの患者はがんそのものだけでなく治療の副作用や併存疾患により複雑な症状を経験する.これらは栄養摂取障害と体重減少につながるためNISと考えられる.NISのうち典型的なものは食欲不振であるが,嚥下困難,悪心・嘔吐,口内炎・口渇,吃逆なども栄養摂取障害に直結する(表1A).進行がんではNISの緩和は必須であり,NISを認識し評価することは重要である6).そのための信頼性と妥当性が検証されているツールとして代表的であるのはedmonton symptom assessment system-revised (ESAS-r)7)とpatient-generated subjective global assessments (PG-SGA)8)で,それらは世界的に広く使用されている.しかし,前者では食欲不振や悪心などの症状の強さは評価できるものの早期満腹感や下痢などは含まれておらず,一方で後者では前者に含まれていない症状の有無は判断できるが症状の強さが評価できないなどそれぞれに欠点がある.さらに,頭頸部がんに特化した包括的NIS評価ツールも開発されているもののほかのがん種での信頼性と妥当性は検証されていない9).このように既存のツールでは限界があり患者のNISを把握するための適切なツールの開発が期待される.
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