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がん薬物療法の開発は目覚ましく,治癒不能の進行がんであっても長期間がんと共生できる時代になってきた.また,がん対策基本法およびがん対策基本計画において緩和ケアは手術,放射線療法,がん薬物療法に並ぶ第4の治療として位置づけられ,多職種が患者と家族の身体的・心理的・社会的苦痛をアセスメントし,「診断早期からの緩和ケア」を行うことで患者と家族の苦痛緩和やQOL向上に貢献している.
しかし,いよいよがん治療の効果が乏しくなり,これまで維持できていた「食べる」,「排泄する」,「呼吸する」,「動く」など基本的な生活の営みに支障が出始めたとき,患者と家族は「今まではうまくいっていたのに,なぜ今回はよくならないのだろう」と自己効力感を失ったり,心理的に不安や恐怖を感じたり,またこれまでのがん治療,さらによきパートナーであった医療者に対する疑念が生じることもある.
本特集は,がんによるさまざまな苦痛を伴う症状が出現して日常生活に支障が生じたり,がん治療を受けていた病院から緩和ケア病棟や在宅緩和ケアに移行するなど,患者と家族の身体的・心理的・社会的状況がダイナミックに変化する,病状進行期~終末期の緩和ケアを取り上げた.患者の「食べる」,「排泄する」,「呼吸する」,「動く」など基本的な生活の営みに沿って,日常生活を妨げる苦痛を伴う症状の病態や薬物療法・非薬物療法,可能な限り安楽に毎日を過ごすための方法やコミュニケーションの工夫を紹介する.
治療・療養の場を問わず,病状進行期~終末期にある患者と家族の苦痛を緩和するための一助となれば幸いである.なお,本特集ではがん治療に伴う苦痛とがん疼痛は紙面の関係で取り扱わないことにした.
2020年6月
細矢 美紀
里見 絵理子
© Nankodo Co., Ltd., 2020