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厚生労働省が主管するがん対策推進協議会は,数年に一度,わが国のがん対策の指針となる「がん対策推進基本計画」の策定を主たる役割としている.2017年策定の第3期がん対策推進基本計画では,「がん予防」,「がん医療の充実」,「がんとの共生」が主要な3本柱とされた.このうち看護師には,「がん医療の充実」においては多職種チーム医療の一員として診療を支援し,一方,「がんとの共生」の分野では,緩和ケア,相談支援,情報提供,患者支援,社会的問題への対応などで,医療チームを主導する役割が期待されている.
しかし,基本計画の策定にあたり,診療面では,医師が,診療の標準化,新たな診療分野の強化,新技術の導入など,着実な進歩を計画に取り入れているのに対し,ケアを主導する看護関係者の声が十分反映されたとは言いがたかった.その理由の一つは,協議会の委員として日本看護協会が指名されているだけで,がん看護についての発信力が十分でない点が挙げられる.しかし,本質的には,医療現場における「がん看護のあるべき姿」について看護関係者による俯瞰的な総意が形成されていないことが主な要因と思われる.
静岡がんセンターは,2002年,「理想のがん医療」を目指して設置された615床の高度がん専門医療機関であり,看護の分野では「理想のがん看護」を追求し,「治し,支えるがん看護」の実践に努めてきた.本特集では,第3期がん対策推進基本計画を解きほぐし,診療・ケアの個々の項目において,机上の空論ではなく,静岡がんセンターにおいて看護師が実践している内容の記述に努めることとした.その心は,「理想のがん看護」を目指し,多職種チーム医療の中で協働し,「支える医療」の実践に向けて一歩一歩進んでいる姿を示したかったためである.また,そのような活動を支える診療体制や人材育成などについても概要を示した.
静岡がんセンターの17年間に及ぶ活動は試行錯誤の連続でもあり,その現状が正しい方向を向いているか,今も自信はない.しかし,全国のがん診療連携拠点病院などで,がん患者に向き合う十数万名以上の看護師に対し,理想のがん看護を目指す「道しるべ」を示すことが必要と考え,本特集の編集を進めた.賢明な読者諸氏におかれては,本特集の各テーマについて,自らの医療機関の状況,自らの日々の活動に思いを巡らし,患者のための理想のがん看護を追求する一助としていただければ幸いである.
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