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Ⅰ.は じ め に
ヤヌスキナーゼ(JAK)は,細胞表面上のサイトカイン受容体に結合しており,シグナル伝達にかかわるリン酸化酵素である.JAKは,4種類の酵素[JAK1,JAK2,JAK3,チロシンキナーゼ(TYK)2]がペアを組むことから,二つの顔をもつ古代ローマの神にちなんで命名された.サイトカインが特異的受容体に結合すると,転写因子signal transducer and activator of transcription(STAT)を活性化する.これがJAK-STATシグナル伝達経路である.JAK阻害薬は,この経路を遮断することにより,細胞増殖,リンパ球の分化,炎症免疫応答などを抑制し,抗リウマチ作用を発揮する.JAK阻害薬は,分子標的型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(tsDMARDs)と呼ばれる経口内服可能な低分子化合物である.
本邦では,2013年にトファシチニブ(クエン酸塩),2017年にバリシチニブ,2019年にペフィシチニブ(臭化水素塩),2020年にウパダシチニブ(水和物),2020年にフィルゴチニブ(マレイン酸塩)が承認された.関節リウマチ(RA)に保険適用のある5種類のJAK阻害薬すべてが承認されている国は,世界で本邦だけである.JAK阻害薬は,生物学的製剤と異なり複数のサイトカインを同時に抑制する.しかしながら,薬剤ごとに酵素の選択性に違いがあり,半減期や代謝排泄経路も異なる(表1).トファシチニブはJAK1およびJAK3,バリシチニブはJAK1およびJAK2,ウパダシチニブとフィルゴチニブはJAK1のみを選択的に阻害する一方で,ペフィシチニブはJAKファミリー(JAK1,JAK2,JAK3,TYK2)を広範に阻害する.JAK阻害薬は分子量500 Da以下の低分子化合物であり,半減期が短いため,毎日内服する必要がある.代謝排泄経路は肝臓や腎臓であるため,それらの機能障害を認める場合には減量や中止が必要となる.生物学的製剤と同等の効果を示し,特に鎮痛効果が特徴的である.生物学的製剤と異なり,中和抗体は出現しないとされる.
メトトレキサート(MTX)併用は必須ではなく,非併用でも併用と同等の効果を示す場合が多い.なお,腫瘍壊死因子(TNF)α,IL-17,IL-1といったサイトカインはJAK阻害薬を用いても阻害されない1).本稿では,5種類のJAK阻害薬について日本人のデータを中心に解説し,自験例を紹介することで整形外科医が処方する際の注意点について述べる.
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