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は じ め に
変形性股関節症(股OA)に対する人工股関節全置換術(THA)は,股関節痛を改善して機能や生活の質(QOL)を回復させることが報告されている1,2).ステムの固定様式にはセメントレスとセメントがあり,いずれも良好な長期成績が報告されている.わが国を含めて世界的にセメントレスステムを用いたTHAが普及している3~7).
一方で,セメントレスステムにも,まだ解決しなければならない問題点がいくつかある.その一つに応力遮蔽(stress shielding)があげられる.応力遮蔽によって骨萎縮が生じると,骨強度が低下して人工関節周囲骨折(PPF)のリスクを高める8,9).わが国においてTHAの件数が年々増加していることに伴い再置換の件数も増加しているが,再置換の原因をみるとPPFの割合が増加している.セメントレスステムにおいてPPFの予防,つまりは応力遮蔽の予防が,セメントレスステムの長期成績をさらによくするための重要な課題であるといえる.
応力遮蔽の原因は,ステムの表面加工や形状,剛性といったさまざまな因子が考えられている10).現在,もっともよく使用されているセメントレスステムはチタン-6アルミニウム-4バナジウム(Ti-6Al-4V)合金でつくられている.Ti-6Al-4V合金は,生体適合性がよく,耐食性にも優れている.一方,Ti-6Al-4V合金のYoung率は110 GPaであり,ヒトの皮質骨のYoung率10~30 GPa11)と比べると高い.この剛性の違いが,応力遮蔽の原因の一つと考えられている.
当大学金属材料研究所で開発されたチタン-ニオブ-スズ(Ti-Nb-Sn:TNS)合金は,Tiを母材にNbとSnを主要合金成分としたTi合金である.TNS合金はYoung率が40 GPaと低いが,熱を加えると強度やYoung率を変化させることができる画期的な新合金である.適切な熱処理によって,同一材料内で,その強度とYoung率を連続的に変化させることができる.われわれはTNS合金を用いて,Young率と強度の機能傾斜特性を有するTNSステムを開発した12).
TNS合金の生体材料としての安全性と有用性については,基礎実験で細胞毒性や骨親和性がTi-6Al-4Vと同等であることを確認している.
当大学倫理委員会の承認を得てTNSステムの臨床応用を始めた.術後平均3年経過したので,TNSステムの中期成績を報告する.
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