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は じ め に
近年,整形外科で行われる医療の高度化に伴い重篤な術後感染症の発症リスクが増加しており,原因菌種を可能な限り迅速に検出・同定することで適切な抗菌薬を選択し,治療を開始することが臨床上重要である.しかし,現在の細菌検出法のゴールドスタンダードである細菌培養検査は,原因菌の同定までに数日(2~3日)を要するため,結果が判明するまでの間は経験に基づく経験的治療を施行せざるをえない.その結果,広域スペクトルの抗菌薬使用による薬剤耐性菌の出現や,抗菌薬の選択ミスによる感染遷延化の危険性など,感染症治療の早期においてはいまだ重大なリスクを抱えている.
われわれ整形外科領域においては無菌的な領域を扱うことが多く,特に人工関節置換術後に細菌感染が発生した場合,細菌は人工関節周囲にバイオフィルムを形成するため,その治療には難渋する.また弱毒菌感染や,すでに抗菌薬が投与されている場合,細菌培養検査では偽陰性となる確率が高い.さらに関節リウマチ患者はC反応性蛋白(CRP)値のベースラインが高く,感染が生じているのか,現病の悪化なのかを判断するのに難渋する.したがって感染症の原因菌種を迅速に検出・同定するシステムの確立が求められており,近年では迅速検査法の開発競争が熾烈となり,抗原検出法,質量分析法や遺伝子検出法の分野では検査の迅速化・自動化が試みられている.
われわれはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いた人工関節周囲感染症の原因菌種迅速同定法を検討するなか,富山大学の仁井見らと北海道三井化学社が共同開発した真核生物である酵母をホストとした新たな耐熱性デオキシリボ核酸(DNA)polymerase(yeast-made Taq DNA polymerase)に着目した.これはbacterial DNA contamination-freeを世界ではじめて実現したTaq DNA polymeraseであり,高感度で正確な細菌DNAの検出を可能にした1).さらに仁井見らは,融解温度(melting temperature:Tm)値の組合せによるTm mapping法を用いて,血液培養検査における原因菌種迅速同定システムを構築した2).ここでは,Tm mapping法を用いて人工関節周囲の関節液から迅速原因菌種の同定を行ったので,その結果と課題について報告する.
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