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は じ め に
人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は,人工関節置換術の1~2%で発生し,もっとも重大な術後合併症の一つである1,2).PJIの術後2年以内の死亡率は25.8%と報告されている3).PJIの診断は臨床所見と血液や関節液の各種バイオマーカー,細菌培養検査,組織学的検査の組み合わせで行われており4),現在のところ,PJIを完璧に診断することができる単独のバイオマーカーは存在しない.血液中の炎症マーカーは特異性が低いという特徴があり,また細菌培養検査は原因菌同定のゴールドスタンダードであるが感度が低く,またコンタミネーションによる偽陽性の頻度も高いのが特徴である.PJIの診断は依然として課題であり,正確で迅速なバイオマーカーの開発が期待されている.
近年,PJIのバイオマーカーとして,いくつかの物質が報告されている.関節液中の白血球数,多核白血球分画,白血球エステラーゼ,IL-6,IL-8,αディフェンシンなどである5,6).関節液中白血球数およびC反応性蛋白(CRP)と並び,αディフェンシンがもっとも研究されている関節液中のバイオマーカーであり,αディフェンシンは,International Consensus Meeting 2018(ICM 2018)のPJI診断基準の小基準にも含まれている4).しかし,αディフェンシン検査はわが国では研究用に限られ,かつ検査キットが高価であるため一般の病院で使用することはむずかしいのが現状である.われわれはαディフェンシンにかわるバイオマーカーの検索を行ってきた.
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は,好中球のアズール顆粒に含まれ,次亜塩素酸の生成を触媒することで病原微生物に対して殺菌的に作用する酵素である.近年,病原微生物に対し好中球が放出する好中球細胞外トラップ(NETs)という構造物が注目されており7),NETs放出と同時に細胞内のMPOが放出されることがわかってきた8).これらの動態から,われわれはMPOにPJIの新規バイオマーカーとしての可能性を模索するにいたった.これまでに,PJI診断におけるMPO検査の診断精度を評価し,MPOがPJI診断のための優れたバイオマーカーとなることを報告した9).本稿では,さらにαディフェンシンの測定を加え,関節液中のMPOとαディフェンシンを比較した.
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