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白状すると私はいわゆる“アニメオタク”だ.諸先輩方には眉をひそめる趣味かもしれないが,クールジャパンであり,世界ではもはやメインカルチャーのひとつと確信している.昨年の夏,私は酷く心を痛めた.2019 年7月18 日,京都アニメーションの第一スタジオで発生した放火事件のためだ.ご存知の通り,多くの生命と才能が失われ,今なお入院されている方がいる.この京都アニメーション(以下,京アニ)というスタジオは1980 年代,アニメ制作の下請けからスタートする.「フルメタルパニック? ふもっふ」(2003 年)で初めて自社制作作品を発表して以来,「涼宮ハルヒの憂鬱」(2006 年),「けいおん!」(2009 年)等々,立て続けにヒットを飛ばす.このスタジオで制作されるアニメの特徴はきわめて丁寧な作画と繊細なキャラクターの動きにある.吹奏楽部を舞台にしたアニメ,「響け! ユーフォニアム」(2015 年)ではコンクールでの約8 分間にわたる演奏シーンをアニメで見事に描き切った.音楽とのシンクロ,演奏者の躍動,金管楽器に映り込む影,すべてが精緻に描かれており,アニメ表現の最高到達点といっても過言ではない.事件後に公開された「劇場版ヴァイオレットエヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形-」(2019 年)では,中盤に舞踏会に臨む少女の緊張した手をパートナーである主人公がやさしく握るシーンがある.この微妙な手の動きだけで,次の瞬間少女の緊張が解きほぐされたことが鮮やかにわかる.このような実に繊細な表現が作中随所にみられる.京アニの“画の芝居”は雄弁に語る.CG など最先端の映像技術が駆使されつつも,彼らは手書きの画にこだわっている.アニメーターのたゆまぬ努力に裏打ちされ,最新の映像技術とともにあの素晴らしい映像表現が実現されていると筆者は考える.
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