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我々哺乳類の生体内のあらゆる組織では,その発生過程において,一部の無血管組織(角膜,軟骨,椎間板など)を除き,動脈・静脈・毛細血管からなる血管ネットワークがくまなく張り巡らされる.これは,組織に酸素・栄養を供給し,細胞の恒常性を維持するために必須の仕組みである.それまで解剖学,生理学の一分野としての役割をはじめとして,比較的地味な領域であった血管研究が世界的に脚光を浴びるようになったのは,1971 年Judah Folkmanが腫瘍血管新生(tumor angiogenesis)のコンセプトを提唱したことに端を発する.「がんの成長・進行は血管新生に依存し,血管新生を制することができればがんも制することができる」という概念は,基礎医学・臨床医学両面からきわめて斬新で,挑戦的なコンセプトとして世界に迎えられた.従来の抗がん剤の多くは,腫瘍細胞の旺盛に増殖するという特徴をターゲットにしたもの(DNAやタンパク質の合成など細胞分裂の過程を傷害する)であり,制がん効果の高いものほど正常組織,特に構成細胞のターンオーバーの早い組織へのダメージが大きく,造血障害・消化管障害などの副作用が大きい.つまり,大雑把に言うと,「効果の高い抗がん剤ほど副作用も強い」というジレンマが存在した.一方,腫瘍血管をターゲットとした『抗腫瘍血管新生療法』は,腫瘍本体そのものではなく,腫瘍に酸素・栄養を供給する新生血管を標的としている,いわば腫瘍に対する『兵糧攻め』の治療戦略である.それゆえ,増殖細胞を非特異的に傷害してしまうことによる副作用は理論的にほとんどなく,ヒトにやさしい抗がん剤と考えられてきた.本稿では,抗腫瘍血管新生療法として世界初の,かつ現在でも臨床現場で代表的な製剤であるベバシツマブ(商品名アバスチン)の現状と今後の展開について概説する.
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