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はじめに
関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA),リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR),変形性関節症(osteoarthritis:OA)はプライマリ・ケアの領域で頻 繁に遭遇する疾患である.いずれも四肢・関節などの疼痛を主訴に受診することが多く, その都度鑑別し,診断する必要がある.
しかし,これら3疾患にはいわゆる診断基準は存在しない.RA,PMRに「分類基準」が 存在するのみである.リウマチ性疾患の診療において「診断基準」と「分類基準」の違いを 知ることで,リウマチ性疾患に対する考え方を再考するきっかけになればと考える.
診断基準とは,臨床現場で個々の患者を診断する目的のために作られた基準である.疾 患に関する確実な症候や所見をもつ,または確実な症候の出現を明らかに予想できる診察 状態のことを指す.つまり「診断基準」≒「疾患の定義」である.一度診断すれば診断名が 変わることはまれである.
近年,関節リウマチを代表としてリウマチ性疾患は診療が劇的に進歩し,初期での治療 介入が予後に大きく影響する.早期診断が望ましいことは言うまでもない.しかし,リウ マチ性疾患は同じ疾患であっても個々の症例の徴候は多岐にわたり,経時的に症状の出現 も異なる.よって,ある一点で診察しても確実に診断できる保証はなく,年月が経てから 診断できるケースも出てくる.
分類基準は診断がついた多数の症例をもとに,その疾患に特異的・典型的な徴候など研 究に組み込むために抜粋して篩にかける定義として作成された.つまり,多様性のあるリ ウマチ性疾患を効率よく研究するための基準である.分類基準の誤用の代表は「分類基準 に当てはまったから診断した」という使い方である.これは誤診の元になる.ウイルス性 感染でもリウマチ性疾患の分類基準を満たすことはよくあることだからだ.
診断のためには分類基準(典型的経過)は参考にしつつ,目の前の症例がどの疾患により 近いかを病歴,身体診察,検査を相対的に判断し,経時的に評価することが求められてい る.PMRと診断した数年後に高齢発症RAに診断が変わることは筆者も幾度となく経験し てきた.つまり,リウマチ性疾患の診断は症例のフォロー中に変わることがあり,診断基 準は常に臨床医の頭の中にある,ということなのだ.
よって,プライマリ・ケア領域でRA,PMRなどを診断する場合は,まずその疾患らし さに気づくことが重要である.そして,常に除外診断をしつつ,相対的に判断をしていく. そうすれば「抗CCP抗体が陽性だからRAだ」,「RFが陰性だからRAではない」というス テレオタイプの診断・除外診断はしなくなり,疾患の自然史を追いながら病態を俯瞰して 判断できるようになるだろう(図1)1).このような方法は専門家でも常に悩んで行ってい て判断が覆ることもある.プライマリ・ケア領域で悩ましいのは当然であるので遠慮なく 専門家に依頼してほしい.
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