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はじめに
梅毒はTreponema pallidum による全身性の感染症であり,主に性行為を介して感染が伝播する性感染症である.わが国では,2013年頃から右肩上がりに梅毒の報告数は増加しており,2022 年にはついに年間10,000 人を突破した1).2020 年のみ報告数が減少したが,これはCOVID-19のパンデミックにより臨床現場の混乱および保健所の業務過多により検査のキャパシティがオーバーしたため,梅毒の感染者が減少したというよりは,梅毒の診断機会が減少した結果と考えられる. COVID-19でソーシャルディスタンスが励行されたにもかかわらず,なぜ梅毒の報告数が増えるのか理解に苦しむ方もいるかもしれないが,そこにはいくつかの理由があると考えられる.まずは患者側の要因で,性感染症のハイリスク行動を取る人たちの行動様式は,コロナ禍においてもとくに変化しなかったことがあげられる.事実,コロナ禍においても性感染症の報告数は例年と比べても減少しておらず2),COVID-19という外的要因が,性感染症ハイリスク集団の性的行動の変化に対して大きな影響を与えなかった結果だと考えられる.また,梅毒は人と人との性的接触が増加すれば当然感染機会も増加するわけであるが,近年,梅毒感染とマッチングアプリ利用との関連が指摘されている3).そもそもCOVID-19の流行に関係なくマッチングアプリの利用者数は年々右肩上がりであり4),各大手マッチングアプリの会員登録数は1位のペアーズで2,000万人,2位のタップルで1,700万人,3位のOmiaiでも700万人であることから5),不特定多数の人間同士が接触の機会を得るプラットフォームが整っている,ということも感染者数増加の一因であろう. 一方,医師側の要因として,梅毒の啓発が進んだ結果,積極的に梅毒が診断されるようになり,また,全数報告疾患であることが改めて意識づけられたことも報告数の増加につながった可能性がある.梅毒以外の性感染症は著明な増加はみられていないことからも,意外に医師側の要因も大きいのかもしれない.
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