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哺乳類において寿命と妊娠期間は相関していることが知られており,それによると,ヒトの哺乳類としての本来の寿命は,30前からたかだか50歳までと考えられる(Brown, 2016)(図1).したがって,現代のヒトの世界全体での平均寿命であるおよそ70歳は,本来の寿命をすでに20年以上超えている状態であり,平均寿命が世界一である日本ではさらに10年以上(図1の外にはみ出る)もの寿命が続く.つまり,現代の人間・ヒトは,哺乳類として生殖年齢と本来の寿命をはるかに超えた寿命をもつ例外的な状態にある.ここに「老年」が生じ,上述のような観点からあえていえば,種全体としての“生き残り戦略”として生殖年齢を超えた個人にさまざまな生活習慣病(non-communicable diseases;NCD)などが不可避的に起こるとも考えられる.きれいな水や豊かな食料などの衛生状態の改善と医学・医療の発展などによる寿命の延伸自体は,人類の営々たる努力のすばらしい成果である.しかし,その結果生じたNCDの発症などによる不健康な状態での寿命期間をいかに短くするか,いかに健康寿命を寿命と一致させるかが,老年の最大の課題のひとつとなっている.この対策として,NCDなど疾病に対する直接の早期診断や治療・ケアの方法の開発などに加えて,発症予防・重症化予防の観点から「健康日本21・第2次」はじめさまざまなヘルスプロモーションが推進されている.
本稿では,そのような予防の視野をさらに生まれる前から生後まもなくの胎生期・発達期まで広げる,また生後老年期に至る過程における予防についても,胎生期・発達期に身体に起こる現象を基盤として認識する,という考え方について述べる.次節に概説するdevelopmental origins of health and disease(DOHaD)が,胎生期・発達期を将来の疾病とつなげて考える現在最も有力な説だが,筆者はそこに補足されるべき別の視点があると考えている.筆者が目指している「胎児科学」(大谷,2018)の観点から,なぜ個人によりさまざまな異なるパターンでNCDが発症するのか,胎生期・発達期から将来の健康寿命を延伸するために考えられることはなにか,多くはまだ仮説段階にとどまるものだが,発生学からの視点の提言のひとつとしてご紹介する.
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