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1.はじめに
体格指数(body mass index:BMI)は,死亡や疾病発症等のアウトカムの優れた予測指標として知られている.20歳以上の成人では,BMIが標準の人に比べて,やせや過体重は死亡率が高く,さらに肥満はそれ以上に死亡率が高いというJ字型の関係をもつことが知られている(例:Flegal et al., 2013).しかし,高齢期に限ってみると,この関係性は反転して逆J字型となり,やせであることが過体重や肥満以上の死亡リスクをもつ(例:Flicker et al., 2010).これは「Obesity paradox in old age(高齢期での肥満仮説の矛盾)」とよばれている(Oreopoulos et al., 2009).また,体重変化も死亡率に影響を与える要因である.最近のメタアナリシスでは,高齢期の体重増加と体重減少は,双方とも死亡率を高めると報告されている(Chang et al., 2015).
これらの知見は,1時点のBMI値,あるいは研究者が操作的に定めた2時点の変化量を調べることによって死亡率との関連を調べている.しかし,現実にはBMIは長期的に変化していくものである.より実際に即した高齢期の体重管理の方策を提示するためには,同じ対象者を繰り返し調査することによって個人内変動を加味した自然なBMIの軌跡(trajectory)を把握し,それに基づいた議論が重要である.加えて,集団内において,その軌跡はいくつかのバリエーションをもつはずである.そのため,軌跡のパターンを同定することも必要である.
高齢期のBMIに関する研究は欧米諸国からの報告が多い.これは,欧米諸国では,肥満対策が高齢期においても公衆衛生上解決すべき大きな課題となっているためである.では,肥満の少ない日本では高齢期のBMIを問題にしなくてよいかといえばそうではない.日本人は,欧米人と比べて平均BMI値ははるかに低いが,そのため特に高齢者ではやせの割合が多い.先述のような高齢期のやせの死亡リスクを考えると,欧米諸国とは異なり,高齢期のやせ,あるいは低栄養が問題となってくるのである.そのため,欧米諸国からの知見を参考にしながらも,日本独自の知見を創出していくことが必要となる.
このような問題意識のもと,1987年より実施されている60歳以上の者を対象にした全国高齢者パネル調査(長寿社会における中高年者の暮らし方の調査: http://www2.tmig.or.jp/jahead/index.html)の長期追跡データを用い,BMIの軌跡パターンが総死亡率に及ぼす影響を明らかにした(Murayama et al., 2015).現在のところ,今回のリサーチクエスチョンや解析手法が類似した先行研究は,アメリカからの2本の報告のみであり,本稿ではこれらアメリカの先行研究との比較を交えながら記述していく(詳細な比較はMurayamaら[2017]のレビュー論文参照).
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