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1.はじめに
厚生労働省の推計によると,認知症高齢者は2025年には約700万人を超えると予測されている.入院患者における認知症高齢者の割合もより増加していくため,一般病棟の看護師が,認知症に関する知識をもちケアを実践できる力をつけることは急務である.
認知症高齢者が入院すると,身体症状の悪化や環境の変化から認知症の行動と心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)やせん妄を発症したり増悪する傾向がある.安全に治療が受けられることを重視する病棟看護師にとっては認知症高齢者の理解しがたい行動に対して困難感を抱きやすく,現象を紐解くことなく対応することも少なくない.その背景には,認知症高齢者が体験している苦痛や不安と不可解な行動を関連づけることができないこと,認知症の原因疾患が身体状態や生活活動に及ぼす影響および高齢者の特性に関する知識不足などが考えられる.
こういった現状を踏まえ,本委員会では2015年より委員の実践事例をていねいに振り返り,老人看護専門看護師(以下,GCNS)と認知症看護認定看護師(以下,DCN)の認知症高齢者に対する看護における思考から実践に至るプロセスを明らかにすることにより,認知症をもつ人が安心して治療が受けられる看護実践についての理解を広めることを期待して事例検討を始めた.この取り組みの成果として「みかたが変われば,認知症高齢者が変わる;認知症高齢者の看護を紐解く」というテーマで第21回学術集会において2事例の話題提供を中心にミニシンポジウムを開催した.
1事例目は,レビー小体型認知症をもつ人に初めて遭遇した病棟から相談を受けたDCNが,臨床症状から早期診断の必要性を判断して専門医の受診につなげ,病棟看護師に対しては知識不足を補うために予測的な視点で助言することで,看護師の不安を払拭し,正しい知識に基づいたケアの実践に結びつけ,高齢者に笑顔が戻り,自宅退院となった事例である.2事例目は,持続胸腔ドレーンをハサミで切断した高齢者がその行動に至った理由を考えることを意図したカンファレンスで,DCNは「どのような人なのか」と投げかけ,認知症高齢者の苦痛や心理的側面に目を向けたケアを考えられるよう介入し,夫との時間を楽しめるようになった事例が報告された.なお,今回の事例発表に際し,倫理的配慮として,ご本人は逝去されている1事例目は,代諾者である娘さんに,2事例については,ご本人とご家族に,匿名性の遵守と同意は自由意志であり,いつでも不利益を受けず撤回できることを口頭および書面で説明し同意を得ている.
以下に,話題提供した2事例の概要,起きている現象のとらえ方・思考,介入のプロセスとその成果を示す.ミニシンポジウムにおいてもディスカッションを通してこのプロセスを共有できたと感じている.
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