巻頭言
高齢者ケアの理念と「身体拘束ゼロ」の課題
高崎 絹子
1
Kinuko Takasaki
1
1東京医科歯科大学医学部保健衛生学科
1School of Allied Health Sciences, Tokyo Medical and Dental University
pp.4-6
発行日 2000年11月1日
Published Date 2000/11/1
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2000年4月から施行された介護保険制度は,わが国のケアシステムを大きく転換させるものであり,これにより飛躍的にサービスの量が増えた.この制度の特質は「申請主義」「自由契約」の2つのキーワードに代表されるが,特に痴呆やADLレベルの低い高齢者の場合,必要なサービスを適切に受けることが保証されるかが課題となっている.そうした状況を背景に,近年,高齢者虐待や不適切処遇の問題がクローズアップされているが,厚生省は,平成11年3月31日付けで指定介護老人福祉施設,指定介護療養型医療施設等の運営基準に身体拘束禁止の規定を盛り込んだ省令を発表し,続いて本年7月,身体拘束ゼロ推進検討委員会を発足させた.世界の先進国に比較して遅すぎた取り組みとはいえ,本当の意味で福祉元年の幕開けであると評価できる.身体拘束は人権擁護の観点のみならず,身体機能や心理状態を悪化させ,高齢者のQOLを根本から損ないかねないからである.
そして,身体拘束禁止の規定は,高齢者虐待をはじめとする高齢者ケアの課題に具体的な解決を迫るものであると同時に,広義の高齢者福祉の理念の実現に向けて政策転換を図ることを象徴しているともいえる.その委員会の委員の1人として参加しているが,この課題の大きさに改めて,身の引き締まる思いをしている.
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