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はじめに
老人人口の割合が14%を超え,日本はいよいよ高齢社会に突入した.高齢化のスピードはますます早まる傾向にあり,高齢者の占める割合が増加の一途をたどっており,医療費の高騰の傾向も著しい.医療技術の発展により,高齢者に対する高度な治療が可能になったこともその傾向を加速する要因となっている(図1).
それに対する法・制度の動きも急で,医療法,老人保健法,老人福祉法などの改正,地域保健法の新設,今また公的介護保険制度の創設が検討されている.こうした改正のなかでは,病院や施設から在宅への方針が強化され,いわゆる訪問看護ステーション制度の新設,医療法や診療報酬請求の大幅な改定,あるいはゴールドプランなど高齢社会に対応するための施策が次々と打ち出されてきた.
このような状況を背景に,老人看護の実践の場における状況も大きく変化したが,長く老人看護を独立した領域として,また,看護学体系として確立し,教育の専門家を育成する動きは十分とはいえなかった.これは老人医学についても同様であった.
しかし,小児が大人の雛型でないのと同様,老人は成人の延長ではない.看護は,治療し得ない疾患や加齢による障害をもつ人々をもケアし,癒すことに重要な意味を見出すとともにその独自性を発揮することができるといえる.そうしたニーズに応えるために看護は,実践においても教育の面でも大きく飛躍する時を迎えたといえよう.
なお,近年では,「老人」という用語のマイナスイメージが強くなり,「高齢者」「老年者」「お年寄り」という言葉に代えられている.これは,かつては東洋では「老」という言葉には,敬いの感情を込めて用いられたのであるが,老人のおかれた社会的状況や価値観の変化によって,大きく影響を受けた結果といえよう1〜5).本稿では,これまでの状況を踏まえる意味でも「老人」をそのまま用いることとする.
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