Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
精神看護の臨床能力形成における課題については、治療的人間関係あるいは患者—看護者の関係における“関わること”の意義や、患者との関わりを通して対象を理解する方法や構えなど、“対象理解の特性”に関すること等が中心となっている1)。精神看護では、このような“関わること”と“患者理解”に関する構えと技法、知識が統合されて看護者個人の感性として形成され、主観的・直感的な患者把握が行われる。この把握を言語化し、関連する諸情報を合わせて患者の全体的な像としていくことであり、それが客観的な患者理解としていく過程でもある。いわば主観的な把握と客観的な理解の積み重ねにおいて患者・看護の理解や関わり方が統合されていき、それが臨床能力としての個人の感性として獲得される過程でもあると考えられる。
患者と関わりながら対象を理解していく過程は、精神看護のみならず、看護の基礎としても重視されているが、実習において初めて精神疾患患者と接する学生にとっては、精神看護が“理解できた”とする実感2)を持つことは必ずしも容易ではない。精神科において一人の患者を受け持つ看護実習は、精神科臨床能力獲得の初期的な機会となるが、その経過には、初心者である学生の主観的反応や客観的な対象理解の内容や特性等が認められる。実習時に“患者と関わる”ことに関した気づきの内容としては、患者理解の鏡となる学生が自身の偏見に気づき、価値観や傾向を受け入れること等、学生自身の自己認知が実習の初期段階で認められ3)〜5)、その重要性が指摘されている。一方、患者把握については、実習の経過を通して様々な主観的な気づきや客観的理解が行われ、患者の訴えが言葉・表現どおりではないこと、表出のあり方に患者の特性や症状が影響していること6)、精神の健康に関して正常と異常との境界が明確なものではないこと2)、患者の病気や回復時の反応には生育環境や社会文化的な価値観が反映していること等を実感することが明らかにされた7)。これらの事柄への“実践的な気づき”を核として、様々な知識の客観化・構造化が次の“気づき”に関連し、この連鎖が初期的看護能力の形成と大きく関連するであろう。
実習指導時の学生に対する調査と観察をとおして、精神看護に対する初心者の理解の内容や認識の構造を検討することは、精神看護の理論的特性の一部を説明することでもある9)と考えられる。
今回の報告は、初心者である学生が精神科病棟で行った実習時の患者理解・関わり方の理解に関する調査と実習時の記録の分析を通して、精神看護の理解に関する実態(具体的な認識内容)を検討することで、今後の実習指導における援助の質の向上に役立てたいと考えた。
Copyright © 2003, Japan Society of Nursing and Health Care All rights reserved.