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Ⅰ.序論
再生不良性貧血や白血病・悪性リンパ腫などの血液・造血器疾患の根治を目指した治療方法に,造血幹細胞移植(以下,移植)がある.移植を受けた患者を対象とした国内外の先行研究を概観すると,そのキーワードは「QOL」であると考える.たとえば,藤井ら1)の無菌室管理を必要とする患者のQOL低下に関与する要因について分析したものや,移植後患者のQOLを健康関連QOL尺度を用いて一般の国民基準値と比較検討したもの2)がある.ほかにも,移植患者の疲労と身体活動に関する研究3)など,QOLを移植患者の生活環境や身体的側面から捉えた研究は数多い.また,QOLについて移植患者の病気体験や希望・生き方に対する価値観に着目した研究4)〜7)なども行われている.
医療技術の進歩により,医療の目的は単に病気を治療することだけではなく,医療を受ける人々のQOLの向上を目指すことに変化してきた.QOLの意味するところは「生活の質」「生命の質」であることは周知の通りであるが,「Life」という言葉には生活や生命だけではなく「人生」「生き方」という意味も含まれる.つまり,単に医療を受ける人々の心理・社会的側面だけでなく,その背後にある個人の人生や生き方に対する価値観といった実存的側面に関する知の蓄積は重要である.森田ら8)は,英語圏での「spiritual」もしくは「existence」をテーマにしたターミナルケア領域の論文を概観している.そして,これらが宗教的要素と実存的要素を含めた概念として扱われており,心理・社会的因子とは異なる次元で患者ニード,QOLや抑うつ,希望や孤独感,疼痛と関連する可能性があると述べている.一方,わが国でspiritualについて着目するようになったのは,1988年のWHOの健康の定義の改正案に,「spiritual wellbeing」を加えることが採り上げられたことにある.しかしながら,その訳語が定まらず概念規定が曖昧であった.窪寺9)によると,spiritualityという言葉は,宗教学では神仏との深い関係を結ぶ中で与えられる聖潔な生き方と理解され,哲学では生を支える根拠として,特に生きる意味などの存在論から捉える傾向にあるという.このように,spiritual,spiritualityという言葉の定義は,研究領域が異なれば,その意味合いも異なっている.Heideggerは,Husserlのものごとをありのままにとらえることを本質とする現象学の考え方に影響を受けながら,独自に人間の存在とその時間性に関する考えを発展させたといわれている10).Heidegger11)はその考えの中で,「実存」とは常に自分の在り方を問題にするような仕方で存在している現存在である人間の,その在り方のことであると述べている.また,実存分析の創始者であるFrankl12)は,どんな困難な状況においても人は人生の意味を見出すことができると考えている.
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