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1.はじめに
人間を対象とする研究においては,対象者の人権への侵害に関する問題がしばしば存在することが近年指摘されるようになり,特に生命倫理の観点からの論議が盛んである.特に医療の現場における生命倫理の問題が論議の中心になり,このような背景のもと,医学部においては生命倫理の観点からの審査体制が整うようになってきた.
保健医療福祉の現場で,人間を対象とすることが多い看護学の研究においても,人権擁護の倫理的視点からの審査体制が必要であるが,それは二つの理由からである.ひとつは,看護学の分野における研究には,医学における研究と同様に,意図的,また非意図的にかかわらず人間の身体や精神へ侵襲する恐れがあることである.すなわち,研究対象者の個人の権利と研究がもつ科学的価値との対立する価値がそこに存在する可能性がある.ところが,看護学における研究においては,対象者の研究参加への自由意志の尊重やプライバシーの尊重等に対する吟味が行われているかどうかあやしいものが少なくないことが最近の調査で判明している(日本看護協会,日本看護科学学会).
もう一つは,最近の看護系大学の急増に伴う看護学部の社会に対する責任の問題である.アメリカ合衆国等では,看護学部を有する大学において看護学の研究に関する倫理審査体制が整っている.しかし,日本では最近,急速に4年制の大学において看護学教育を行う大学が増加しているが,歴史が浅いこともあって,学生や教員の行う研究を人権擁護の観点から審査する体制を整備しているところは少ない.社会に対する大学の使命として,自らを点検する姿勢と体制を整えることは言うまでもないが,学生や教員の行う人間を対象とする研究について倫理審査体制を整えることもそのひとつであろう.
日本看護科学学会の看護倫理検討委員会は,1994年から看護学研究の倫理的課題についてさまざまな側面から調査検討行ってきたが,1997年は特に,看護系大学における倫理審査体制そのものに焦点を当てて検討してきた.日本における看護系大学は,その設置のあり方がさまざまである.総合大学の中の看護学部,看護学の単科大学,医学部等他の学部に置かれた看護学科もしくは保健学科看護学専攻課程などである.従って,看護学の倫理審査体制は,その大学の設置形態等を考慮に入れて,最も適切な倫理審査体制が整えられることになるだろう.この試案では,主に看護学部を想定して,どのような考え方で看護学研究の倫理審査体制を整えられるかを模索したものである.本委員会は,倫理審査体制は,こうあるべきであるという定型的なものはないと考えている.そもそも倫理審査体制は,研究者同志が自らを律するという意味を持つので,研究に共通する倫理課題や予測しうる問題を明白にし,その対策を学会が専門的な立場から提唱することが妥当であると当委員会は考えるものである.従って,この試案は,看護系大学において審査体制を設けるときに,ひとつの参考資料として役立てばというのがこの論文の趣旨である.
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