特集 質的研究と研究倫理—研究を育てる倫理の在り方再考
研究倫理とケアの倫理—看護系大学における研究倫理審査外部委員の経験から
榊原 哲也
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1東京女子大学現代教養学部人文学科哲学専攻
pp.472-477
発行日 2024年10月15日
Published Date 2024/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681202250
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はじめに
筆者は「哲学」を専門とする者であるが,看護を中心とするケアの現象学的研究に携わり,看護系大学にも長年非常勤講師として出講してきたことが縁で,2015年度から9年にわたり,複数の看護系大学・大学院で研究倫理審査委員会註の外部委員の経験をさせていただいた。「倫理」や「倫理学」はいうまでもなく「哲学」の一部門であり,それゆえ筆者に外部委員の役目が期待されたのであろう。しかし,研究においても教育においてもこれまでいわゆる「倫理」や「倫理学」から距離をとってきた筆者は,委員に就任してからもとくに「研究倫理」について勉強したわけではなく,委員会では筆者なりの「普通」の感覚でコメントをしてきたにすぎない。振り返ると,果たして何をしてきたのか,何ができたのか,まったく心もとない。
それゆえ,「研究倫理審査外部委員の経験」をもとに「研究倫理審査の実情と課題」を書いてほしいとの執筆依頼が届いたときには,引き受けるべきかどうか,正直かなり逡巡した。けれども,専門の異なる筆者が看護といういわば「異文化」のなかで感じたこと,考えたこと,実際にやってきたことを思いつくままに率直に記すことにもそれなりの意味はあるだろうと思い直し,お引き受けすることにした。このような次第なので,以下本稿は,論文というより経験談のような体裁をとっていることをあらかじめお断りしておきたい。
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