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1.はじめに
近年医学や科学が高度に進歩し,医療技術の高度化とともに急激な高齢化社会を迎え,看護の臨床では,看護者が日常的に倫理的問題に直面している.
1990年看護倫理検討委員会が,日本看護科学学会により設立された.この委員会は,1991年委員会報告を提出,「看護倫理からみた東海大学病院事件-報道が問わなかった問題を問う」というテーマで看護婦からの報告を端緒にして事実経過を探り,この事件を公共的な問題として設定,看護職に求められる倫理的役割を提言した1).1992年には脳死臨調の答申に関して出した「脳死及び臓器移植に関する重要事項について」2)で,脳死の解釈・移植についての情報の偏り・医療の密室性をどのように打破するのかについて看護者の立場から述べている.1993年の同委員会報告では,「看護婦が日常の臨床場面で感じている倫理上の問題」3)で日本の臨床場面で看護婦が感じている倫理上の問題状況が示された.この報告では,「倫理上の問題と感じた状況に対する看護婦の反応」として,医師に従わざるを得ない看護婦-医師関係や,頻繁なチーム・カンファレンスにみられるチーム依存性が反映されていること,及び専門職業人としての自律性が育成されていない状況などが明らかにされている.さらに1997年4)には,薬害エイズ問題に関する看護職の倫理的認識と対応の実態が調査され,その結果に基づき看護職の倫理的ジレンマの状況が明らかにされ「もっと積極的に看護職同志で話し合う場をもち,正確な情報を共有しながら力を結集すること」が必要であることが提言されている.中西ら5)は腎移植患者ケアをめぐる研究で「看護者は高度化する医療の中で種々の倫理的葛藤を体験し悩んではいるが,多くの場合,それを意識化し,積極的に解決に向かわせるすべをまだ持ち合わせていない」ことを指摘している.
本委員会は,このような状況をふまえ,今回,看護倫理検討委員会では医療の現場における人権に対する啓蒙活動が必要と考えた.「実践現場の看護倫理ワークショップ」はその一環として企画されたものである.
平成10年度の看護倫理ワークショップは東京会場と神戸会場の2カ所で開催した.ワークショップの開催主旨は,1)現場看護職の人権意識の高揚,2)倫理問題と多様な価値観を考える枠組みの提供,3)倫理的ジレンマに気づき,これを克服するための知識の提供,4)参加者がコアとなって現場にアプローチの方法を広げる基礎をつくることとし,実践現場の看護職が看護倫理に目を向け,自ら倫理的問題に取り組めるようになることを期待した.ここにそのワークショップの実施状況と成果について報告したい.
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