特集 看護における倫理教育
看護倫理臨床ワークショップの試み
眞嶋 朋子
1
,
中西 睦子
2
1千葉大学大学院博士後期課程
2広島大学医学部保健学科
pp.21-26
発行日 1996年1月25日
Published Date 1996/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901296
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はじめに
ずいぶん前に,ある雑誌につぎのような事例が報告されていた.理由はわからないが,肉親との関係を閉ざしている青年が悪性疾患で入院してきた.医師は治療開始と同時に,家族に連絡をとるよう看護婦に言った.しかし,青年は,絶対に家には知らせないでほしいと言う.看護婦は迷ったが,結局,医師の方針に従い,実家に連絡をとる.ただちに母親が来院し,やがて実兄もきたが,本人は面会を拒み,看護婦にも信頼を裏切ったことを責め,以後のコミュニケーションは断絶した.看護婦は自分の行為はまちがってはいないと思うものの,患者の信頼を失ったことにやりきれない思いを抱いている.
では看護婦はどうすればよかったのか,という問いには科学的に考えても答えは出せない.それは倫理の問題であり,道徳的価値判断の問題である.看護ケアの場面にはこのような問題が,多々存在する.看護学生の実習も例外ではない.したがって看護の臨床教育では,さまざまな体験を通して学生が自ら守るべき価値を内在化していけるような環境を整え,あるいはそのような機会を意図的にとらえて援助していくことが必要であろう.
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