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Ⅰ.はじめに
近年,「がん」という病名に対するイメージの変化や,インフォームドコンセントに対する意識の高まりがみられ,病名の告知率は上昇している.一般成人を対象とした全国調査では,70%以上が治癒の見込みが期待できない場合においてもがんの告知を希望しており,家族ががんに罹患した場合の告知においては,「患者本人の意向があれば知らせる」の回答が約60%であったことが報告されている1,2).
このような現状において医療者は,患者の知る権利と意思決定を尊重し,告知後の患者と家族を支援していくことが求められている.また,病名の告知だけではなく,病状の変化や悪化の状況,生命予後に関する情報を伝えながら,最期までその人らしく過ごせるよう,患者と家族を支援していくことは重要であるといえる.
近藤3)は,告知とは単に病名を告げることだけを指すのではなく,患者とまわりの人々とが真実について語り合いを継続していくことを意味すると述べており,時間的な経過とともに患者と家族の相互作用を通して告知のもつ意味が深まっていくことが示されている.
終末期の患者と家族の相互作用がもたらすものとして,死と向き合い,ともに支え合いながら闘うことによって互いの人間的成長が促進されること,患者は家族とのつながりのなかで自分らしさを保ち,死に直面した状況においても自分を肯定的に受け止めることができることなどが明らかにされている4).また,患者と家族の相互作用に影響する要因として,病気や病状に関する患者の受け止め方などが挙げられている5,6).さらに看護師は,終末期がん患者とのかかわりにおいて,患者家族との相互関係から自己を内省し,日々の看護を通じて死生観を深化させ,家族の看取りを支援していくなかで,職業アイデンティティが形成されていくことが示唆されている7).
患者の終末期における患者・家族・看護師の相互作用の関連性が明らかとなってきている一方,病名は告知されるものの,家族の意向により,患者に病状や生命予後などが正確に伝えられない場合がある.真実が伝えられないことにより,相互作用パターンが円滑に作用せず,患者の不信感や家族の罪悪感などが生じ,患者と家族のQOLに影響を及ぼすことが推測される.先行研究においても,予後告知をしなかった場合,患者と家族,医療者とのコミュニケーションに障害が生じていたことが報告されており8),ケア提供において看護師は,患者とのかかわり方に葛藤や困難を感じ,介入に消極的になることが示唆されている9,10).
このように,患者に予後告知がされていない状況におけるケア上の問題点は散見されるが,適切な看護介入を提供するためには,患者や家族の苦悩を明らかにするとともに,何が介入を困難にしているのかを検討する必要がある.
そこで本研究は,家族が予後告知を拒否する終末期がん患者の事例の分析から,ケアの根拠となる必要な看護診断および予後告知をしないことによって生じる看護上の問題を明らかにすること,患者・家族への看護介入への示唆を得ることを目的に検討を行った.
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