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I.はじめに
本調査は,日本腎不全看護学会統計調査委員会が実施した第3回目の全国実態調査であり,「透析患者のからだとこころと透析環境の実態」に焦点をあてている.透析看護の発展や施策の提言に貢献するために,本学会のデータベースを作成することを目的とした調査である.
日本透析医学会(2017)の「わが国の慢性透析療法の現況」によると,透析患者は33万4,505名にのぼり,長期透析患者,糖尿病性腎症患者ならびに高齢透析患者の増加により,身体面をはじめとして心理・社会面に関しても看護が対応すべき問題は複雑化している.透析患者のこのような種々の問題を解決するためには,臨床検査データに基づく医学モデルからのアセスメントだけではなく,患者の生活の全体像を把握することが重要である.日本看護協会(2015)の「2025年に向けた看護の挑戦,看護の将来ビジョン─いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護」の将来的ビジョンでも,「看護は,対象となる人々を,どのような健康状態であっても,人生を生きる一人の個人として総合的にみる.つまり“疾病”をみる『医療』の視点だけではなく,生きていく営みである『生活』の視点をも持って“人”をみることにその専門職としての価値をおく」としている.これは,透析看護においても同じであり,透析看護も透析患者を1人の個人として総合的にみる必要がある.そこで透析患者の日常生活,特にQOL(生活の質)に影響する身体・心理・社会面の実態を知るため,2017(平成29)年に全国実態調査を実施した.
身体面では,山田他(2012)が指摘するように,透析患者の高齢化やADL(日常生活動作)の低下が問題になっていることに着目し,「虚弱」や「老衰」,「脆弱」を意味するフレイル(frail)について明らかにすることとした.また,慢性疾患をもつ人々のケアにおいて,慢性の痛みの存在に関心を寄せる重要性についてLubkin他/黒江(2002/2007)が記している.透析患者の場合においても痛みは問題となっており,痛みを中心にその他の身体症状についても明らかにすることとした.心理面では,厚生労働省(2010,2011)によると,社会全般でうつの増加が問題になっており,透析患者も例外ではないと考え,不安・うつについて明らかにすることとした.社会面とは一般的に個人を取り巻く他者や制度,医療環境などを指すが,透析患者の社会面としては,必ず接する透析施設の人的環境,施設に関する設備環境について明らかにすることとした.
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