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I.はじめに
透析看護の対象となる患者は,慢性腎臓病(以下,CKDと略す)患者が主であり,そのうち,慢性維持透析療法を受けている患者は,2017年末で33万人を超えている(日本透析医学会統計調査委員会,2018).患者は,透析療法に至るまでの経過のなかで,蛋白尿の発現によるCKDの診断から,腎不全保存期,透析導入期といったさまざまな病期を過ごす.また,病期を過ごすなかで,症状や疾患の管理,合併症やその重症化予防のために,疾患と折り合いをつけながら生活をしている.
CKD患者は,この療養調整では,疾患を管理するために,日々意思決定を繰り返しながら,今までの生活様式を変更したり修正したりしながら暮らしている.そのなかで,特に大きな意思決定として,腎代替療法の選択があげられる.これには,延命治療の選択といった倫理的課題が多く含まれている.病期が長期にわたる慢性疾患の特徴は,患者個人のライフスタイルに大きく影響することから,治療法の選択は患者やその家族に対し苦渋の選択を迫ることになる.そのため,生活を看る看護師には,患者が疾患とともに歩んできた経過や想いを尊重し,患者がその人らしく過ごしていけるための意思決定を,場と状況に応じて支える役割が求められている.
近年では,CKD患者の治療選択場面に携わる医療者には,情報共有=合意モデル(shared decision making:以下,SDMと略す)を用いた意思決定支援が推奨されている.SDMは,患者・家族と医療者が共同して質の高い医療・治療法を決定していくコミュニケーションプロセスの1つである.患者・家族が,自身のニーズや価値観,疾患をもちながら生きる想いなどの情報を提供し,医療者と患者・家族は互いのもっている情報を共有し,患者にとって最適な治療法を決定していくコミュニケーションプロセスの1つである(中山,2016;清水,2002,2015).これによって,医療者は患者・家族の今までの生き方を尊重し,患者がその人らしく病いとともに生活するための支援が可能となる.しかし,SDMを用いたCKD患者の意思決定への支援に関する実践報告は少ない.
今回,治療法選択後も自身の選択に心が揺れ動く患者と出会った.患者は,自身の生活や生き方に合った治療法を選択したものの,さまざまな環境要因により自己の決断に自信がなくなり治療法を変更しようとしていた.この意思決定へのかかわりをとおし,患者が意思を決定するプロセスに看護師がどのようにかかわればよいか,患者の意思を支えるために患者が大切にしている価値や想いを尊重する支援とは何かを学ぶ機会を得た.この事例をつうじて,年々増加傾向にあるCKD患者の意思決定を支援するにあたり,看護師をはじめとした医療チームの倫理的姿勢を考える機会としたい.
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