第17回日本腎不全看護学会・学術集会記録 【教育講演】
3.病気になる前の状態に戻れるわけではない—疾患を有する患者と家族の健康を考える
市来 真彦
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1東京医科大学精神医学分野
pp.28-36
発行日 2015年4月15日
Published Date 2015/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.7003200032
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医療への期待と病気が「治る」という概念
筆者は以前から,病院内外で精神科治療の場面において,統合失調症,感情(気分)障害,認知症などの精神疾患を有する患者本人およびその家族に対して疾病や治療についての心理教育を行うかたわら,会社員や役所職員,学校の生徒や教職員,高齢者,子育て中の母親などの一般住民に対して,精神保健を切り口にした健康教育の講演を行っている.このときに出会う参加者に対して,「人は何を求めて病院に来るのだろうか?」という質問を投げかけると,表1のように,「病気を治してほしいから」という回答が圧倒的に多い.ほかに「薬をもらいに行く」,「悪いところがないか検査に行って安心したい」,「人工透析やリハビリなどを受けに行く」といった回答も毎回出てくるものの,その数はわずかであり,病気の有無にかかわらず,一般的に病院は「病気を治してもらう所」という認識のようである.
さらに「病気が治るとはどのようなことか?」という質問を投げかけると,たいていの人は表2のように,「病気になる前の状態に戻ること」と回答することが多い.そして具体的には,①(数日で)もとどおりに戻ることを期待し,いずれは②薬を服用しなくてもすむようになり,そのため③「病院に通わなくてもよくなる」と考え,さらには④後遺症が残らず,⑤再発しない,ということを「病気が治る」ことと考えている人がきわめて多いのである.では,あらゆる病気は本当にこれらの①〜⑤を満たす状態になるのであろうか.まずは筆者の専門領域である精神疾患をみてみよう.
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