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Ⅰ.地域でこそ推進するエンド・オブ・ライフケアの重要性
1.わが国の医療政策とエンド・オブ・ライフケア
わが国では,2004年に高齢化率世界1位となり,この高齢化率は2050年まで首位を維持することが推計されている1).世界で最も急進する高齢社会を地域全体で支えるために,在宅医療・在宅看取りの推進が進められている.現状のままでは,2025年の推定死亡者数 160万人に対し,医療機関における病床数の現状維持,介護施設は現在の2倍に整備,自宅死亡1.5倍が見込めたとしても47万人の終末期ケアの提供が困難であると推計され,地域格差も問題とされている2).そのため,在宅療養を支えるためには地域医療完結型の医療が重要であることの認識が高まり,2012年,①高度急性期への医療資源集中投入などの入院医療機能分化の強化,②地域包括ケアシステムの構築,③在宅医療の充実により,どこに住んでいてもその人にとって適切な医療・介護サービスが受けられる社会へ,医療と介護が協働する在宅医療推進へとわが国は大きく舵を切った.次いで,重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステム構築の実現を大きく掲げた.さらに地域差を失くすために,地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じた地域包括ケアシステムをつくり上げていくために,市町村単位で構築が進められていくことが提示されている.これらの方向性は,介護を中心とした生活支援と医療とが共存し,統合的ケアサービスとして地域ケアシステムに組み込み,地域に看取りの場を確保しようとする戦略である.
このように,わが国におけるエンド・オブ・ライフケアは,今後の在宅看取り対策として,医療と介護の連携を強化し,地域全体での看取り体制の構築が必要不可欠であるという文脈で進められている.これは病院中心の医療から地域医療への重点化,プライマリケアの充実へとシフトする生活を中心とした医療システムへの変革である.同様に,国民の生や死に対する意識変革や,医療の受け方に存在する価値観の意識化とパラダイムシフトを意味している.しかも,地域包括ケアシステムの構築は介護保険事業計画と医療計画とが融合し,都道府県と市区町村単位で進められる.ゆえに,地域格差の是正とその格差あっての地域性や生活文化の尊重といえるだろう.このことは,エンド・オブ・ライフケアのあり方を当事者の目線で主体的に模索する必要性が求められていると考える.老いや病いをかかえながら地域社会で生活し続ける人々が,その暮らし方,家族との関係性や生と死に関する価値観を国民1人ひとりが自ら深く問い,社会とのかかわりのなかで新たな生き方の探求をすることが重要である.それゆえ,専門家のみならず,すべての国民への意識改革が必要とされる.その一方で,地域医療や病院医療文化のなかでわが国の生活文化に即した患者・家族の意思決定支援のあり方,法整備や制度づくりは未整備な状態であり,今後の仕組みづくりが急務であると考える.
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