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Ⅰ.緒言
糖尿病腎症は重症化すると腎不全を起こし透析導入に至り,患者のQOLに多大な影響を与える.一方,現在の透析医療費は33億円であり,国民医療費のおよそ5%に相当し,医療経済上の大きな負担となっている1).糖尿病患者は診断時には5~10%が糖尿病腎症を認め,さらに糖尿病歴20年間の糖尿病腎症の発症率は25%で,その20%が10年後に末期腎不全となっている2).近年の糖尿病腎症の臨床研究において,顕性腎症期患者においても適切な血糖と血圧のコントロールによって末期腎不全への移行の抑制が可能であるとされている3).しかし,わが国の糖尿病腎症による透析療法導入患者数は年々増加の一途をたどり,2011年では43.5%と半数を占めている4).そのため,2012年度の診療報酬の改定では医師や看護師,栄養士による糖尿病透析予防指導管理料が新たに設定されるなど,食事療法をはじめとする支援の充実が求められている.糖尿病腎症の末期腎不全への移行を抑制するためには,薬物療法に加え病期分類に応じて求められる食事療法5)の実行と継続が欠かせない.しかし,臨床現場において腎臓病食の食事療法について説明を受けた患者が,「なんだかとても難しい」,「計ったり計算したり,今はできているが続けるのは大変」,「糖尿病は量を減らせばいいけど,また違っていてよくわからない」などの食事療法を実行し続ける困難性について話されることが多くあった.
糖尿病患者の食事療法に関する先行研究では,食事療法の実行度は時間の経過とともに低下することや6),食事自己管理を継続することのつらさ7)が明らかにされている.保存期腎不全期に続く透析療法導入後の食事療法も,治療が長期になると食事療法がおろそかになるとされている8).いずれも時間の経過とともに食事療法の継続が困難となることを示している.ただし,これらの報告は糖尿病患者と糖尿病腎症透析患者に関するものであり,保存期糖尿病腎症患者の食事療法の継続に関する研究は見当たらない.また,いずれの先行研究も食事療法継続の困難性に着目しており,患者が意欲的に食事療法に取り組んでいくことにかかわる要因についての研究は行われていない.
糖尿病は自己管理の病気であるとされ,よい血糖コントロールを得るために,必要な治療法を患者自身が実行し,日々の生活に合わせ調整していくことが必須である.そのため,糖尿病自己管理は,指示を守るのではなく,患者が能動的・自発的に治療に参加することが必要である9).つまり,糖尿病における食事療法の継続には,患者の「意欲」とも言い換えられる能動的な意思活動が欠かせないということである.糖尿病腎症を発症した患者では,糖尿病治療食のカロリー制限に加えて腎症治療のための蛋白や塩分の制限が加わった,より困難な食事療法の実行を余儀なくされる.保存期糖尿病腎症患者では,困難な食事療法を実行し続けるための強い意欲が欠かせない状態におかれているのである.意欲は気持ちや動機,構えを表しており,時間の経過や心理状態,社会的状況などの要因で変化するものである10).保存期糖尿病腎症患者が食事療法を継続するための意欲にかかわる要因を明らかにすることは,長期的に困難な食事療法を継続しなければならない患者の意欲の維持や増進,逆に意欲減退にかかわる要因の把握を容易にして,看護支援の手がかりとすることができる.看護支援の充実によって保存期糖尿病腎症患者が食事療法を継続することができれば,透析療法導入の予防,患者のQOLの維持,透析療法にかかる医療費の抑制などに資することができる.
ところで,糖尿病患者の食事療法の実行には性差があり,男性より女性患者のほうが食事実行度が低いことが明らかにされている6).それは女性患者では糖尿病の治療より家族役割を優先すること11),調理を担当している女性患者にとって,自分だけのための食事の支度は面倒12),家族の支援が得られにくい6,13)などの理由によることが明らかにされている.さらに女性は食事で気晴らしをする頻度が高く,血糖コントロールを悪化させる14)ことも報告されている.これらの理由から,女性患者が食事療法への意欲をもち続けるには男性以上の困難が伴うことが予測されるため,本研究では,保存期糖尿病腎症女性患者が食事療法を継続するための意欲にかかわる要因を明らかにすることを目的とした.
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