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Ⅰ.はじめに
わが国の慢性透析療法の現況(2011年12月31日現在)1)によると,全国の透析時間の主流は週3回4時間で,5時間未満が全体の93.3%,5時間以上は6.7%である.4時間透析が標準と考えられる理由は,2007年に日本透析医学会と日本透析医会が厚生労働省に向けた見解によると,透析技術の発達により短時間透析が可能となったことと,1985年に4時間以上・未満による診療報酬が設定され,これを機に平均的な透析時間が限りなく4時間に収斂され,透析を提供するスタッフ配置を含む診療体制もこの4時間が基本となったことが挙げられている.
しかしながらAクリニックでは,合併症を予防し,よりよい透析を行うための基本は十分な透析量の確保であり,その透析量を規定する最大の因子は透析時間にあると考え,1974年の開院当時から5時間以上の透析を継続している.大規模前向き研究であるDOPPSによれば,透析時間の長さが死亡リスク低下に対する独立的因子であることを示し2),日本透析医学会の統計報告では,透析時間が長くなるに従い死亡のリスクは有意に低下すること,透析時間そのものが生命予後にかかわる独立した因子であることなどが明らかになっている3).また,2009年に実施したAクリニックの外来維持透析患者132名に対するKDQOLの調査結果をみても,J-DOPPSの成績と比べ,AクリニックのKDQOLは高い得点(認知機能88.2,人との付き合い86.3,症状82.6,腎疾患の日常生活への影響76.5,日常役割機能/精神71.7,心の健康73.6)を示していた.
このように,透析時間に関係した透析効率や血液データ,QOL調査などの量的データからは,長時間透析が優れているという結果は出ているが,実際に,透析時間の違いは患者にどのような影響を与えているのであろうか.春木4)は,透析時間が5.5時間を超えると身体(感覚)が軽くなると自らの実感を語っている.患者の固有の状況によって透析時間の長短によるメリット,デメリットは規定されるであろうが,1人ひとりの患者の最善の生き方を支援する看護の立場から,透析時間の違いが患者の透析生活に及ぼす影響について,もっと深く患者の体験世界を知る必要があるのではないだろうか.しかし,先行研究にはこのような透析患者の体験に迫るような質的研究はほとんどみられない.
そこで本研究は,3時間透析を2年経験し,自ら選択して5時間透析を1年間経験し,さらに6時間透析を選択して5年経過する一患者の語りから,患者が体験した透析時間の違いによる透析生活の変化について明らかにすることを目的に取り組んだ.この研究の結果は,看護の視点から透析患者の個別ケアを深化させるための重要な情報の1つとなると考える.
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