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現代におけるQOLの意義
医療をとりまく環境は非常に複雑化している.治療方法は多岐にわたり,選択も容易ではない.たとえば,腎不全にはCAPDや血液透析,腎移植などの選択肢が存在する.競合する複数の選択肢があるなかで,それらをどう選ぶべきであろうか.医師あるいは医療スタッフの判断だけでなく,患者自身の価値観を取り入れて選択することが求められる時代である.わが国でも,かつてはなかったインフォームドコンセントという言葉が定着したように,今後はshared decision makingが時間をかけてゆっくりと,しかし確実に浸透するものと思われる.このshared decision makingの際に,QOLのような患者の視点に立脚したアウトカムを用いた臨床研究によるエビデンスが,患者にとって有用な情報となる.この意味でも,患者由来のアウトカムを正しく評価し,社会に迎え入れられるエビデンスを構築していく体制が,ますます重要となっていくだろう1).
透析医療の質の向上が進むにつれ,患者の生命予後をはじめとしたアウトカムは改善している.しかし生命予後だけでは不十分であり,患者の視点に立脚したアウトカム,あるいは直接報告するアウトカム(patient-reporting outcomes; PRO)の1つとして,「QOL」という言葉が医学界のみならず,社会的にも認知されるようになってきた.しかし,これまでのQOLはスローガンとして用いられることが多く,説得力のあるデータとして示されることは少なかった.なぜなら,QOLは定義が曖昧で,測定が難しいと考えられていたからである.しかし,最近ではアウトカム研究という新しい潮流のなか,QOLの定義が患者にとっての重要なアウトカムの1つであると認識され,その定義も健康状態や医療介入効果を反映する範囲に限定した「健康関連QOL」(health-related quality of life; HRQOL)として整理されてきた.またQOLは,測定理論に依拠した測定スケールを用いることにより,単なるスローガンやアンケートではなく,科学的に測定・定量化のできるアウトカムの1つであるとみなされるようになった2).
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