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Ⅰ.はじめに
血液透析患者が合併症を予防し,安定した日常生活を送るには,患者自身が食事療法・水分管理・シャント管理などの自己管理を行う必要がある.この自己管理のなかの食事療法は,治療の1つとして位置づけられ,糖尿病1)や腎不全2,3)の患者教育のなかで重要な位置を占めている.また,わが国の透析治療を受けている患者の死亡原因は依然として心不全,脳血管障害など4)食事と密接に関係している.
糖尿病性腎症透析患者〔糖尿病が進行し糖尿病性腎症のために血液透析治療(diabetic nephropathy hemodialysis; DNHD)を受けている患者〕の食事療法は,透析導入に至るまでは糖尿病食としてのエネルギー制限を必要とされ,透析導入後は逆に高エネルギー摂取をすすめられ,さらにカリウム・リン・水分制限が必要とされることから,患者は受容しにくい状況におかれる3,5~7).加えて,糖尿病性網膜症を合併し,高度の視力障害を認める者が多く8),食事療法を実施するにも難しいと思われる.
一方,非糖尿病性腎症透析患者〔糖尿病以外の疾病により血液透析治療(non diabetic nephropathy hemodialysis; 非DNHD)を受けている患者〕では,これまでの腎臓食に,透析導入によってさらに高エネルギー摂取とカリウム・リン制限が加わる3,9).この透析食は,腎臓の代行の食事といわれている.
DNHDと非DNHDでは透析前後における食事内容の変化が異なり,両群の食事療法に対する困難感も異なるので,2群の食事管理行動の違いを知ることは食事療法をすすめるために大切と考える.
血液透析患者の食事管理行動は,患者自らがコントロールすることによって,初めて効果をあげることができ,動機づけに自己効力感(self-efficacy)が注目されている10)(図1).自己効力感は,予測される状況に計画,実行する自己の能力に対する信念で,他者の介入によって変化し上昇する因子で,その人の将来の行動を予測できる鍵概念である10,11).自己効力感に影響を与える刺激要因は,遂行行動の達成,生理的・情動的喚起,代理的経験,言語的説得で,これらは自己効力感を高め,自らの行為を促す力となるので10,11),援助に役立つと考える.
血液透析患者の自己効力感については,透析患者の食事管理行動を測定するために自己効力感を取り入れた研究がなされており,そこでは,自己効力感が食事療法や水分管理を含む食事管理行動の維持を表す指数を短期間予測する因子であり12,13),自己効力感を高めることが食事管理行動の改善につながると示唆している.岡14)は血液透析患者の食事管理の自己効力感尺度(Diet Management Self-Efficacy Scale)を開発し,川端15)が生活全体を管理する透析管理自己効力感を測定している.しかし,これら2つの研究報告は,自己効力感への刺激要因については触れていない.そこで,自己効力感に影響を与える刺激要因を知ることによって効果的な患者教育を行うことができると考え,両者の比較と刺激要因について調査した.
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