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糖尿病スティグマとアドボカシーとは
糖尿病に対する社会や医療者からの差別と偏見が,糖尿病患者に社会的・経済的不利益を与え,糖尿病患者自身の社会的地位と自尊感情を著しく損なっている.これを糖尿病スティグマという.糖尿病スティグマについては,日本糖尿病学会編「糖尿病治療ガイド2020−2021」にも取り上げられ,糖尿病治療目標達成のためには看過できない問題として挙げられている1).糖尿病患者といっても,糖尿病の診断がつくまでは「糖尿病のない人」であり,社会で普通に生活していた人々である.ところが,糖尿病と診断された瞬間から,一般社会より分断された立場に追い込まれる.家族や同僚などから,糖尿病になったのは本人の自己管理ができていないせいだ,食べ過ぎで不摂生なせいだなどと非難を受け,本人の性格や能力を不当に貶められる.社会的な損失を被ることもあり,生命保険や住宅ローン,就職や結婚にも悪影響を及ぼすことがあるが,このようなことは本来いわれのない差別である.糖尿病の治療のために病院やクリニックなど医療機関を受診すると,そこでも医療従事者より「食べ過ぎなので食事を制限するように」「運動するように」など,実行不可能な制限を指示されることさえある.いずれも糖尿病に対する知識と理解が不十分であることに基づく社会的分断であるが,糖尿病患者としては,社会的な孤立を感じ,実質的な経済的不利益を被る.治療に前向きになるどころではなく,そんな自分の立場をみじめに感じてしまうと,自尊心も低下する.最終的には糖尿病自体も増悪する結果となる(図1).このような状況に立ち向かい,糖尿病患者の権利を守り,社会的地位を回復させる活動を糖尿病アドボカシーという.糖尿病患者の真の幸福を追求するうえでは,糖尿病スティグマを撲滅することに躊躇してはならない2).しかしながら,スティグマやアドボカシーに関して,糖尿病治療の分野で十分な理解が深まっているとは言い切れず,これからの重要課題と思われる.
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