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1.はじめに
本稿では,近年徐々に注目されるようになってきている越境学習という概念に注目し,その効果と省察(リフレクション)の関係について考察していく.越境という言葉をそのまま解釈すれば,境界を越える,ということになる.当初,越境学習が提唱された段階では,境界とは,会社(あるいは職場)の中と外の間にあると想定され,個人が会社組織や職場の境界を越えて学ぶことが越境学習と呼ばれていた(中原,2012).これに対し,石山(2018)は,越境をより個人の心理(認知)に基づくものと解釈し,境界を個人にとってのホームとアウェイの間にある心理的な存在と解釈した.ホームとは,個人にとって居心地のよい慣れた場所である.ホームには以心伝心で通じるよく知ったメンバーが存在するが,同時に刺激のない場所でもある.他方,アウェイとは,個人にとって居心地が悪い慣れない場所である.そこには日常の言葉が通じない,見知らぬ人間たちが存在するが,同時に刺激のある場所でもある.石山(2018)は,このようなホームとアウェイを「往還」(短期間に行き来すること)とし,その刺激によって学習が生起することを越境(的)学習と呼んだ(図1).
一方,省察(reflection:以下,本稿ではリフレクションと表記)とは,Schön(1983)が提起した概念である.Schönによれば,リフレクションとは実践での経験の振り返りであり,「reflection in action(行為の中のリフクレション)」と「reflection on action(行為についてのリフレクション)」により重層的に経験を意味づけていく.またSchönは,それによって専門家の知識が形成されていくともしている.
専門家である看護師にとって,看護の実践におけるリフレクションが有効であることは,論をまたないであろう.そこで越境学習とリフレクションの関係について検討し,看護師における越境学習の効果を明らかにすることを本稿の目的とする.
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