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[患者が置き去りにされている]
超高齢社会が進むわが国では,高齢糖尿病患者の割合が急増している.セルフケアが重要となる糖尿病においては,患者の価値観,信念,生活習慣など,個別性に応じた看護が求められる.高齢になるほど加齢に伴う個人差は大きく,病気や治療に対する患者の意向もさまざまである.高齢患者にとって,セルフケアは日常生活の流れの中に組み込まれている.食事の仕方を例に挙げれば,最初に口にするものはご飯という人もいれば汁物という人がいる.また,好きなものから食べるという人もいれば,好きなものは最後に食べることで満足感を覚えるという人もいる.ペースにしても,ゆっくり時間をかける人と流し込むよう早く食べたいという人もいる.このように,日常生活の行動には,その人なりのやり方やペースがある.したがって,医療者が患者の生活に介入する際には,生活者であるその人への細やかな配慮が求められ,それが不足すると,患者は医療の中に自分の生活を閉じ込められたように感じて混乱したり,困惑したりすることがある.看護師は,高齢患者が大切にしている生活のありようを尊重し,医療は生活の一部であることを認識するとともに,患者は何を大切にして生きてきたのか,糖尿病に対してどのように向き合おうとしているのかということを理解する必要がある.
しかし,医療者の現場では,理解力がない,判断力がない,適切に表現できないといったように高齢患者に対するステレオタイプ的な見方がある.それは,医学的情報については患者ではなく家族に優先的に知らせる傾向があるという医療者の行為にも表れている.家族に情報が伝えられて,その意向が尊重されるということは,患者が糖尿病に関する自分の状態を正確に理解し,自分の意思を表出する機会を奪われることにつながる.その結果,患者は自分が置き去りにされたように思い,疎外感や孤独を感じる.また,家族が患者より先に意向を表出した場合,患者は家族への遠慮から本音を言い難くなり,自分の意思とは別のところにある,家族の決定に従わざるを得ない,あるいは譲歩せざるを得ない状況に追い込まれ,自尊心は低下し,尊厳が脅かされる.本来,人間の尊厳とは,人間が人間であるという一点のみにおいて,誰もが例外なく等しく認められるべき人間に固有の道徳的価値であり,「高齢者である」「認知症がある」という理由をもって人としての尊厳が些かでも脅かされることがあってはならない.看護師に必要なことは,糖尿病を抱えて生活している患者の現実を共有する視点,すなわち患者の立場に身をおいて考えることである.糖尿病を理解し,受容することの現実に直面しているのは患者自身であり,その視点に立った上で患者が抱えている現実を引き受けられるか否かで看護のありようは質 的に大きく異なるものになるであろう.
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